自分という自然と共に:㈱ナチュラルハーモニー

オーガニックや自然栽培という言葉がまだ一般的ではない頃から、長年自然食品店「ナチュラル・ハーモニー」を経営されてきた、河名秀郎さん。「ナチュラル(自然)ハーモニー(調和)な生き方」をお伺いしました。  

 

生きること、死ぬことを身近で感じた幼少期

僕には4つ年上の姉がいました。ガンだったのですが、抗ガン剤・放射線・手術のいわゆる三大治療を受けましたし、水や漢方等、あらゆる治療法を試していました。本人が苦しむ姿を見たし、両親の苦しみも近くで見てきました。 そんな環境で育ち、子どもながらに「どうやったら大往生できるのか?」と自分の死際を考えるようになりました。安らかに死にたいなら、逆算すれば今やるべきことが見えてくるし、自分の選択で死に方を選べるなら、大往生できる生き方にシフトしていきたいと思ったんです。その中で、日々の食事が体を作るとか、土と人間の関係というものが見えてきました。 ある時「その地域の人々の健康状態を知るためには、その土地の土を見ればわかる」ということを教えてくれた人がいました。「土が健全だったら、その地域の人は健康である」というシンプルな答えが見つかり、健全な土のあり方を模索する中で、「発酵している土」が健全な土だということがわかりました。

 

土も発酵する

僕は東京生まれ東京育ちなので、農業の「の」の字も知りませんでした。歳の時に「自然栽培」というものに出会い、肥料を使わずに育てる農作物は人体にとって自然なんだと思いました。その後はサラリーマンも経験しましたが、自然栽培の世界観と社会構造のギャップにいたたまれなくなり会社を辞めました。

所持金30万を持って、千葉県の自然栽培グループでお世話になり、年間がむしゃらに学びましたね。肥料を入れた畑と何も入れない畑で虫や病気の出方の違いがあると、身をもって知りました。発酵している土は、あたたかくてやわらかくて、水はけと水持ちがいい。発酵系の菌が自然にわいて、植物に必要な栄養素を作り出しています。逆に、腐敗した土は、硬くて冷たくて水はけが悪い。化学肥料や有機肥料などが阻害物質となり、発酵系の菌が育ちにくくなります。人間で言ったら、代謝が悪くて低体温症になっている状態ですね。 自然栽培を学び、そのまま農家になるという選択肢もありましたが、それ以上に「この自然のしくみを伝えたい。自然栽培の農作物みたいに人間も生きれば、病気にならないんじゃないか。これをみんなに伝えることが自分のミッションじゃないか。」と思ったんです。それで、1985年にナチュラル・ハーモニーを設立しました。

 

横浜市にある店舗には、徹底的にこだわり抜いた食品や調味料が並ぶ。

 

調和に大事な「五感力」

「自分が心地の良いものを追求していった結果、地球も良くなる」というのがいいと思いませんか?そうであれば、一番身近な自然は自分なんだから、自分という自然をキレイにしていかないと。衣食住トータルで、いかに自然の摂理に沿ったものを選ぶか。食べるもの、着るもの、住む空間。それが自然栽培から学んだことです。 僕は東京に住んでいますが、都会の中でも自然と調和した暮らしはできます。化学物質が使われていないものを選び、自然栽培の食品を選ぶ。その甲斐あって、医療費はほとんどかかりません。これだけでも十分な社会貢献ですよね。

店舗に併設されたレストランでは自然と調和した食を味わえる。

 

 自然と調和した暮らしをするためには、五感力が大切だと思っています。五感力を最大限に発揮させたら、そのモノが自然なものかそうでないかは自分で判別することができます。味覚で言えば、食べ物を口にした時に「心地よさ」を感じるかどうか。これが体に良いとか悪いとかという「知識」ではなく「感覚」なんです。 触感、視覚、嗅覚、自分の五感を研ぎ澄ませれば、自分にとって良い野菜かどうかが判断できるようになります。大根だったら葉っぱがついているところ、キャベツだったら根、そこのにおいを嗅ぐとわかりますよ。トマトは持ってみるとずっしりとして重いとか、葉野菜の緑が濃すぎないな、とか。

「自然を軸にして考えるライフスタイルの実践」を伝え続けている。

 

 あとは、のど越しの良さとかね。僕は、のどって、関所だと思っています。自分にとって必要なものって、のどをするりとすり抜けていきます。例えば塩。スプーン一杯、精製された化学塩を飲み込もうとしても飲み込めない。ウエッと吐き出してしまうけれど、自然塩は飲み込めたんですよ。体が拒否しているのか受け入れているのかがよくわかります。 今の世の中は、五感力が失われやすい世の中だと思います。一度、自分で思っている常識や知識を取り払って、自分の味覚や感覚を信じ切って食べてみることが大事だと思います。 五感力を取り戻すのは簡単です。化学物質が入ったものを摂らないことを2週間ほど徹底してやれば、感覚が戻ってくると思いますよ。出来合いのものを買わないとか、歯磨き粉をやめるとかしてみてください。そして2週間後に、今まで食べてきたものを食べてみた時に違和感があるかどうか探ってみればいいんです。

 

病気は自然からのメッセージ

発酵した土で育った野菜は虫も寄らず、美しく育ち、放置すると枯れますが、腐敗した土で育った野菜は虫が寄ったり病気になったりして、放置すると腐ります。ただ、虫や病気が悪いわけではありません。野菜に付く虫や発生した病気は、土が腐敗しているから野菜が弱ってしまうということを教えてくれているんです。

それは人間も一緒で、病気は、自分と自然の調和のズレを教えてくれるメッセージだと思います。病気やその苦しみを病原菌のせいにして、それを根絶しようとする風潮があるけれど、それは大きな間違いです。人間のルールから抜け出せずに苦しんでいる人が多い。 もう一度自然のルールを学んで、何が自然に沿っているモノかを理解できれば、医者にも薬にも頼らない生き方ができます。それを具現化すればするほど、大地はどんどん蘇っていきます。そうなったらますます、僕たちも大地を汚さない、お金がかからない生き方ができるようになります。自然と調和して生きていくことで、人生はより生きやすく楽しくなっていきます。それを伝えることが僕の使命だと思っています。

 


2021年3月取材。「暮らしの発酵通信」14号掲載

Information
ナチュラル&ハーモニック プランツ
住所
神奈川県横浜市都筑区中川中央1-25-1ノースポート・モールB2F
TEL
045-914-7505

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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