農ある暮らしで「自然・伝統・ものづくり」:阿部正臣さん

20代後半に、ふと、「自然に沿った暮らしをしたい」と気づいたという阿部正臣さん。有機農家になって約4年。地域の資源を活用し、次世代につなげるライフスタイルを模索している。  

昔から農家に憧れていたんですか?

実は、そうでもないんです。まぁでも、小さい頃に見た田舎の原風景が自分の根底にあったんでしょうね。僕は徳島市出身ですが、母親の実家が日本三大秘境である徳島県の祖谷(いや)というところで、小さい頃はそこによく預けられていました。じぃちゃんやばぁちゃんが作った新鮮でおいしい野菜を食べていたし、そんな野菜をつくる祖父母がかっこよく見えていました。

移住者である阿部さんは、高齢で管理できなくなった畑や耕作放棄地を借り受けて畑にしているため、町内に畑が点在している。

自動車関連の仕事をしていた20代後半、将来のことを考えると、自分が今やっている仕事は一生続ける仕事じゃないなって思ったんです。そんな時に、「自然」「伝統」「ものづくり」というキーワードがふと浮かんできました。その3つをつなげるものが藍染でした。 藍染を学ぶのと同時に、藍の栽培も始めたんですが、そうしたら、やっぱり食べるものも栽培するようになって。でも、野菜は種類がたくさんあって、独学は無理でした。そこで、有機農業を学べる農業塾に入ったのがスタートです。

その農業塾でEMを知ったんですか?

はい。塾では、EM活性液やEM生ごみ肥料を使っていました。そこでできた野菜はキレイで本当においしかったんです。 有機農業は、自然を感じながら作業するものです。その時の気候や作物の状態を見ながら、作物が元気に育つ環境を整えられるかどうかが重要なんです。特に土の状態に気をつけています。

EMについて詳しく知る>>

有機農業の醍醐味は収穫してその場で食べれられること。阿部さんの畑で採れたばかりのカブは、瑞々しさと甘みの中に、生き生きとした生命力が感じられる。

作物ごとの栽培技術はもちろん、まずは日照や水はけ、土の状態などその畑の特性をつかむ必要があります。それに2〜3年はかかりますね。毎年その条件も違うし。そういう状況を、EMは土の中の生物性の部分で助けてくれるんです。土の中には微生物を始めとして、ミミズや虫などのたくさんの生物がいます。土の中の小さな生態系において、微生物はその根底を支えています。土の中の微生物相がよくなると、作物が元気に育つ土の環境になります。 僕は新規就農してまだ4年。畑の癖や作物ごとの特性をつかみきるまでの技術が自分にはまだありません。そんな初心者にとって、EMはサポートしてくれるいい資材です。

お客さんはどんな反応をされますか?

みなさん「おいしい」って言ってくださっています。「農薬などを使っていないから」という理由よりも、「おいしいから」と言って選んでくださっているようです。あとは、体調を崩された方とか美容を気にされている方に僕の野菜を紹介してくださっている方が多いみたい。僕の場合は、ほとんど直販なので、そういった声が直接聞けるのが嬉しいです。 うちの畑でできた野菜の特長は、味が濃いこと。野菜それぞれの個性が出ているんだと思います。お客さんには、生でサラダか、軽く火を通してオリーブオイルと塩などのシンプルな味付けで食べてみてくださいとお伝えしています。そうすると大抵の方が味の違いを感じてくださいます。

葉が水をはじいているのが健康な野菜の証拠。キラキラと光る水滴は、まるで宝石をまとっているかのように美しい。阿部さんは少量多品目で年間70品種も栽培している。

それから、「おいしさ」はちゃんと数値にも表れています。野菜の栄養価とか硝酸態窒素(※)とか、いくつかの項目を検査して、数値がいい農家さんの農産物を表彰する取り組みをしている会社があるんですが、僕はそこで3回受賞しました。それを知った方が買ってくださったり、その方がさらに口コミで広げてくださっています。 ※硝酸態窒素とは、野菜の「苦み」「えぐみ」の元になると言われている物質

これからどんな農業を目指していきたいですか?

僕は今のところ、作物づくりにいろんな資材を使っていますが、なるべく地元のものも活用していきたいんですよね。上勝町は、すだちやゆずなどの柑橘類が主要農作物なので、その搾りカスともみ殻の発酵堆肥を使ったり、(今はできていないけれど)竹林の管理で出てきた間伐竹を有効活用したりしていきたいと思っています。農業には色々な資材がありますが、実際に使ってみないとわかりません。本を見ても、人に聞いても、畑によって状況が違うから、使ってみてよかったら続ける、という感覚です。

有機農業で生計を立てていくのは難しいと言われます。でも安全安心でおいしいものを食べたいって本能的な欲求ですし、そのためには里山の機能を守っていかなければなりません。僕がいい作物を作れるのだって里山の自然の恩恵を受けているからだと思います。 日本の国土の多くは上勝町のような中山間地です。今、この中山間地は過疎高齢化による地域の担い手不足が課題となっています。そんな中でも、「専業農家として、家庭を持ちながら生計を成り立たせている」というモデルができれば、それが課題解決の突破口になるかもしれない。そのモデルとなれるようこれからも頑張っていきたいと思います。

「暮らしの発酵通信」6号より)


取材:2017年6月  

Information
テンネンアマル
TEL
090-1005-0303
営業時間
10:00~18:00
その他
阿部さんの野菜はお電話で注文可能です。

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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