ワタシに還る音:ソウルサウンドライアー奏者 Akasha美幸さん

波打つ大きな一枚の木に張られたスチール弦。その楽器を身体に触れさせて一本一本の弦をなでるように弾くと、身体中に音が鳴り響く。Akasha美幸さんは〈ソウルサウンドライアー:Soul Sound Lyra〉と呼ばれるこの楽器で音の癒し、可能性を伝えている。

身体に奏でる音

 京都府京田辺市にある古民家スペースAkasha(アカシャ)では、その日、10体ほどのソウルサウンドライアーが生まれようとしていた。両手で抱えないと持つことができない大きな木の板を女性たちが一彫一彫削っていく。彼女たちが手塩にかけているのはソウルサウンドライアーと呼ばれる楽器で、主に桜の木を基材として、木に張られたスチール弦を指で弾くことで音を鳴らす。

数日間かけて一彫一彫、材を彫り、一本一本弦を張る。世界に一つだけのソウルサウンドライアーに魂を込めていく。

 楽器というものは曲を演奏するために使われるが、ソウルサウンドライアーは音を身体に響かせることを主目的としている。ソウルサウンドライアー奏者でありライアー制作ワークショップ主催者のアカシャ美幸さんは、この十数年間で数えきれない人たちの身体の上や頭の上でソウルサウンドライアーを奏でてきた。

 「私が最初に出会ったライアーは、他の楽器と同じように曲を演奏するものでした。ライアーはジブリ映画『千と千尋の神隠し』の主題歌で一躍注目された楽器です。
 娘が通っていた幼稚園でライアーを知り、いつか楽器を弾いてみたいと思っていた私はライアーの教室に通いました。初めてライアーの演奏を聴いた時に魂が喜ぶ感覚になったので、自分もそんな演奏がしたいと思ったんです。でも実際にライアーを弾いてみると、曲を覚えたり、楽譜を見たり、手元を見たりと思考が働いてしまい、私には
かかっても宇宙とつながるような感動の音を出すことはできない!と諦めてしまいました。
 そんな時に、このソウルサウンドライアーと出逢ったんです。制作者であるドイツ人のアンドレアス・レーマンさんから、ヒーリングと瞑想に特化したタオライアー(ソウルサウンドライア ーの要)の存在を教えてもらいました。曲を覚えなくても楽譜を見なくてもいい、自由に奏でることができる楽器があるなら、それは私の楽器だ!と思い、タオライアーの音を聴いてもいないのにアンドレアスさんにタオライ アーを生み出してくれるようオーダーしました。
 私がタオライアーを受け取ったのが2009年です。初めて音色を感じた時、こんなにすごいものがあるならもっと人に伝えたい!と強く思い、それ以来、ソウルサウンドライアーを中心とした活動をしています。」

 ソウルサウンドライアーを抱えて自分で音を奏でたり、頭や身体の上にのせて音を奏でてもらったりすると、耳で聴く音とは次元が異なる音が、振動と一緒に身体中に響き渡る。身体の内側から骨や細胞を微細にマッサージされているような心地よさがあり、「頭痛が治った」「視界が開けた」「身体が温かくなった」「心が軽くなった」など、感じ方は人それぞれ。

音が連れて行ってくれる世界

 美幸さんの拠点名であり活動名でもあるAkashaは虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)のサンスクリット語読み〈アーカーシャ・ガールバ〉からきている。アカシャは「虚空(宇宙のように限りがない)」という意味で、美幸さんは音には無限の可能性があると言う。

 「『宇宙(そら)の音・地球(ほし)の声』という音のワークショップを主催しています。ソウルサウンドライアーだけではなく、石や木、金属など様々な素材の楽器を用いて音を奏でていただきます。
 2日間かけて行うワークショップの中で、1日目はまず『音を聴く』ということに集中してもらいます。色んな楽器を自由に使ってくださいと言っても、皆さん『どうやって使うんだろう?』と思考が働いてしまいます。
 私がそうだったように、思考が働くと純粋に音を聴く・楽しむということができません。石を二つ持ってもらって音を出したり、石の合わせ方によって音が変わるということなどを体験してもらいます。音を聴くという耳が育ってから初めて自由に音を奏でられるようになります。
 ある参加者さんがこんなことをおっしゃっていました。『ワークショップを終えて家に帰った時に、カギを取り出したらカギの音が聴こえたんです』と。普段、私たちは音に囲まれて暮らしています。生活音は時に雑音として処理されてしまっていますが、音と、音が鳴り止んだあとの静けさに耳を傾けることを意図的に繰り返すと、音と音の狭間も聴こえるようになり、すべての音が響きとして感じられるようになります。」

 「また、こんな方もいました。プロのオペラピアノの演奏者なんですが、とても有能な方で、楽譜を見たらすぐにどんな曲でも弾けるそうです。でも、逆に言うと楽譜に縛られてしまって自由に演奏することができない、と。彼女がワークショップに参加した後、『自分の内面から沸き起こる音色を、初めて奏でることができました』と言ってくれました。
 音には無限の可能性があります。ソウルサウンドライアーを身体の上にのせてヒーリングセッションをする時は、音を奏でる前に『これが終わったらどんな状態になっていたいですか?』と体験される方に毎回お聞きしています。心も身体も未来も、自分が望む状態へと音が導いてくれるんです。
 そんな音の世界の魅力をお伝えしていくのが私のお役目だと思っています。ソウルサウンドライアーの音を奏でることは祈りそのものだし、本来の自分の感覚だったり、自由な楽しさや喜びに戻るきっかけづくりができる最強のツールですね。」

 響くという漢字は「郷(ふるさと)の音」と書く。郷とは自分の原点となる場所。響きというものは本来、自分の原点に導いてくれる音なのかもしれない。ソウルサウンドライアーにはそんな響きを感じられる。 

Youtubeでライアー体験!

暮らしの発酵YouTubeチャンネルでも美幸さんのインタビューとソウルサウンドライアーの演奏を配信しています。

 

「魂(あなた)の音が聴こえる~ソウルサウンドライアーの響き」
アカシャ・アンドレアスレーマン・桐野伴秋 著/2022年/ヒカルランド
QRコードをかざすことで、美幸さんが一枚の写真から聞こえたソウルサウンドライアーの音が聞ける書籍。ソウルサウンドライアーの秘密が丸ごと詰まった一冊。

 

 

Akasha(アカシャ)美幸さん
京都府京田辺市にてスペースAkasha主宰。音の振動を身体に伝えるソウルサウンドライアーによって、音と声を通じた響き愛により自他の隔たりのない世界を体験。音の力の神髄を体感する「宇宙の音・地球の声」ワークショップやソウルサウンドライアーを自ら生み出すワークショップを開催。音と声の探究者。通訳者・翻訳者・編集者・ホメオパス・呼吸法指導者でもある。ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ」のテーマ音楽を担当。

本当の自分を生きる! AKASHAからのメッセージ(ameblo)

 


2023年5月取材「暮らしの発酵通信」18号掲載

 

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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