「洗う」がつくる、服・人・環境:㈱Save the Ocean

ラグビーコーチからクリーニング屋へ転身し、「海をまもる洗剤」を使用したクリーニング屋とコインランドリーを展開している株式会社 Save the Ocean 代表取締役船長の東本猛さん。お洗濯を通して、人と社会を育てている。

株式会社 Save the Ocean 代表取締役船長 東本 猛さん 学生時代よりラグビーに打ち込み、実業団・クラブチームで選手として活躍。母校のラグビーコーチを経て、妻の家業である老舗クリーニング屋((株)カチガワランドリー)を引き継ぐ。「作り手の思い、こだわりを大切にしながら本来のシルエットに復元すること」をコンセプトに、「洗濯で海を汚す時代を終わらせる」クリーニング屋を目指す。

ラグビーからクリーニングへ

僕は学生時代からラグビー一筋で、実業団の選手をしていました。ケガをして選手生命を絶たれてしまったんですが、ラグビーへの恩返しのつもりで、母校の高校のコーチになりました。 僕が高校生の時も僕がコーチになった時も、母校は弱小校でした。だから、そこのラグビー部だということを知られるのは「かっこ悪い」と思っていました。でも、実業団に入ってプレイしたら、他の強豪校出身の選手とも同等に渡り合えたんです。 今思うと、もっと自信をもってラグビーと向き合えばよかった。学生時代に損していたなって。ラグビーは人を育てるものだと思っています。だから、強くなることだけではなくて、考え方含めて育っていってほしいと思い、コーチになりました。今は毎年全国大会に出場できるような強豪校になっています。 妻の実家がクリーニング屋をしているんですが、コーチを辞めて仕事をしていなかったら、義父さんから「クリーニング屋を継いくれないか?」と声をかけてもらいましてね。クリーニング屋になって15年くらいです。

そうしたら、教え子たちが自分の会社に「就職したい」と来るようになりまして。「儲からないからやめておけ」と伝えても、そこは体育会系の気合で「大丈夫っす!」って言って、入りたがるんです(笑)。経営者としたら、彼らをちゃんと生活できるように支えないといけないんだけど、そもそもクリーニングに出す人や、出すような服が減っているから、雇用を維持するためには、クリーニングというサービスだけではなく、何か商品を販売しないといけなくなりました。

問題の一部ではなく、解決の一部になりたい

どんなものが販売できるのか、全国を駆け巡って見つけたのが、この「海をまもる洗剤」です。元々は、海洋タンカーの重油流出事故で流れ出た油を分解するために開発されました。石油系の合成界面活性剤を使用せず、油を生分解できるくらいの小さな粒子にしてしまいます。汚れが服に再付着することもないから、すすぎゼロが可能な洗剤なんです。 その開発に関わった人と出会い、洗剤という油を世界中の人が毎日海に流していて、それは、タンカーの事故の比じゃない量になる、ということを知りました。「じゃぁ、僕らクリーニング屋は、お客さんからお金をもらって、環境破壊をしているということですか?」と聞いたら、「そうだよ、悪人だよ、君たちは。」と言われたんです。

洗濯だけではなく、油汚れに強い食器洗い用洗剤としても活躍する「海をまもる洗剤」

 昔から環境問題に関心があったわけではありません。僕はビーチラグビーというスポーツも20代のころからずっとやっていて、海にはしょっちゅう行ってました。砂浜でやるスポーツなので、砂浜にゴミがあるとケガをして危ないから、練習前には毎回ゴミ拾いをしていました。その時は、「ゴミが多いなぁ」とは思っていたくらい。 「毎週のようにゴミは拾っているのに、そこに流れてくる水を汚していたなんて!」とショックでした。僕も胸張って仕事をしたいから、店で使っている洗剤をこの洗剤に切り替えました。環境問題に気づかされて、その問題の一部に自分がなっていると知った時、「自分は解決の一部になりたい」と思ったんです。

毎月参加している海岸のゴミ拾い活動でも、人とのつながりが生まれている。

毎月地元の海岸のゴミ拾いをしている方とご縁をいただき、僕もその活動に参加させてもらっています。僕の友人やお客さんを誘って、「海をキレイにしたいからゴミ拾い活動しています」というよりも、「ゴミを拾うことで、ゴミを捨てない人を増やしたい」という想いの方が強いかな。

エコよりニコ

そもそも、会社とは、社会問題を解決するためにあると思っています。破壊しながらの発展や見せかけだけの数字には意味がない。人が育つことが発展だと思うんです。ラグビーだったら、勝つことが目的ではなく、ラグビーを通して人が成長することだし、ビーチクリーンだったら、海をキレイにすることよりも、ゴミを捨てない人を増やしたい、そもそもゴミを拾わなくていい状態にしたいと思ってやっています。 洗濯で言うと、毎日の洗濯が環境を破壊している、なんて意識している人はいないですよね。皮脂汚れや洗剤という「油」や、化学繊維の服によるマイクロプラスチックを海に流している、なんて。無意識でやっていることが、どんな行為なのかに気づいてもらって、行動を変化してもらう、これも洗濯によって人が育つことだと思います。そんなことに気づいてもらうために、2019年からお洗濯のワークショップをコツコツ続けて、今は1週間に5講座くらいやっています。

「洗う」事がどのようなことなのかを、実践をふまえながらわかりやすく教えてくれると人気のワークショップ。

 ただ、僕が一番気をつけているのは、「エコよりニコ」ということ。「この洗剤は、海を守るんです!」と言ったところで、環境問題に関心がない人は聞いてくれない。それよりも、洗剤を多く入れる方が汚れがキレイになると思っている人が多いかもしれないから、そこを正して、その人のメリットになることを伝えてあげたいんです。僕らの洗剤はすすぎ0回が可能なんですが、すすぐ回数が少なくなることで、節水になって家計にやさしいし服も傷めない。洗濯時間が減ることで、家族との時間に充てられる。 料理教室のように、料理を教えてくれるところはあるけれど、洗濯を教えてくれるところはないですよね。だったら、僕らがやっている現場と家庭のギャップを伝え、こうした方が、豊かで長持ちしてキレイになるよ、楽だよ、ということをお伝えしています。

洗濯と選択

「ギブアンドギブ」という言葉がありますよね。他人に与えて与えて与えまくっている人が、自分が本当にやりたいことを発信した時、人もお金も集まってくる。そういう人を見ていたら、僕がみんなに与えられることは、お洗濯の知識だなって思ったんです。2021年にクラウドファンディングに初挑戦しました。そういう時に、今までの自分の生き方や今までの会社のあり方が判別されるなとすごく感じて、目標達成ができるのかすごく怖かった。でも、1週間たたずに目標金額に至り、本当に多くのご支援をいただいて感謝しかありません。

クラウドファンディングで作った設備は、次世代まで着られる洋服とメンテナンスをお届けする施設です。 今は、1シーズンで廃棄されてしまう、ファストファッションが主流ですよね。大量生産・大量消費は昨今の異常気象や環境汚染を生み、ファッション業界が大きな影響を与えているのは間違いありません。大量生産・大量消費ではなく、着をずっと大切に着たくなる洋服。そういう服を選択肢の一つに入れてほしい、そのためには、一生着られるようにメンテナンスをする施設が必要だと思ったんです。 「良いものを永く使う」という価値観で、服も洗剤も選んでくれる人が増えたらとても嬉しいです。洗濯だけに、選択してくださいね(笑)。


暮らしの発酵通信」13号掲載

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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