腸内環境の整え方

腸内環境を考える時、腸の中に棲(す)んでいる「菌」をどう育んでいくかがとても大切です。一般的には「善玉菌を摂りましょう」と言われていますが、ただ善玉菌を入れたらいいのか?というとそんなに単純な話ではありません。

腸内環境を整えると免疫力が上がる

腸内を善玉菌環境に整えると何がいいかを一言で言うと、自然治癒力を全体的に底上げしていくということです。それが科学的にどんどんわかってきているので、メーカーがこぞって商品を出しています。

自然治癒力の底上げをすると様々な健康効果がありますが、その中で一番言われているのは「免疫力が上がる」つまり「病気や感染症に負けない体になる」ということです。免疫力が高まるという中に、ガン免疫も含まれます。NK細胞、キラーT細胞などありますが、これらの悪性腫瘍に対する免疫も高まることになります。

腸内細菌は加齢によって菌叢(菌のバランス)が乱れるという疫学調査があります。年齢が上がると何かしら体の不具合は出てきますが、腸内環境を整えることで老化予防になることもわかっています。これらは現代医学で得られるものでしょうか?なので、病気になった時にまずやるべきことは「整腸」です。腸内環境を整えると、免疫だけではなく、ありとあらゆる治癒力を底上げしてくれる、こんなオトクなことが起きるんですね。

免疫力は「高め安定」がベスト

ただ、免疫力は高ければ高いほどいいかというとそうではありません。

乳酸菌などの菌を摂るとアレルギーが軽減するという話があります。そもそもアレルギーとは、外からの刺激(花粉やハウスダストなど)を過剰に排除しようとするという体の反応です。アレルギーと同じシステムが自己免疫疾患。ハウスダストなどのアレルギーは外からの刺激物に対する反応ですが、自己免疫疾患は自分自身の細胞を部外者と判断して攻撃してしまう状態です。まったく違う病気に思えますが、これらは同じ体のシステムです。

免疫が低いと感染症になりやすいけれど、高すぎると過剰反応(アレルギー・自己免疫疾患)してしまいます。つまり、免疫力は「高め安定」が適切になります。腸内環境を整えることでアレルギーの状態を緩和するということは、難病と言われる自己免疫疾患の緩和も見込めるのではないでしょうか。

腸内を整えるために必要なこと

1.シンバイオティクス

腸内環境を整えていくためには、菌と菌のエサを入れていく必要があります。菌のことをプロバイオティクス、菌を育むためのエサ(主に繊維質)のことをプレバイオティクスと言います。そして、プロバイオティクスとプレバイオティクスの二つを同時に摂取することをシンバイオティクスと言います。日本の発酵食品は野菜(=繊維質)を発酵させたものが多いので、シンバイオティクスにはぴったりの食品です。
乳酸菌や酵母など、様々な菌の健康効果がうたわれていますが、人それぞれ腸内細菌のバランスは異なるので、どの菌を摂ればいいのかは一概に言えません。いろんな菌を摂り続けることが大事です。便の状態や体の状態を見て、自分で判断しましょう。

2.水分+塩分

水分も大切です。ただ水を一気にがぶがぶ飲めばいいわけではありません。いっぺんに飲むよりも、少しずつ飲むことをおススメします。水は血液より薄いので、余分な水分は腎臓を経て尿として排出されます。
血液の中に水分を定着させるためには、血液の中と同じ塩分濃度にする必要があります。これが医療現場では点滴になるわけです。0.9%の塩分濃度がベストですが、作るのが難しいし、非常においしくない。簡単に摂取するには、手のひらにひとつまみ塩をのせて口に入れ、すぐに水を飲むのがいいです。熱中症対策にもおススメですね。
自分にとって適量な水分量は、尿の色を見ればわかります。水みたいに薄ければ水分が多すぎで、濃い色をしていたら水分が足りていません。尿の色は、のどが渇く前に確認できるので、のどが渇いてなくても自分の体内の水分量を判別するために使ってください。

3.下剤を常用しない

便秘気味で下剤を常用していると癖になってしまいます。刺激性と非刺激性の下剤がありますが、刺激性を飲み続けると、刺激がないと便が出ない体の状態になってしまいます。非刺激性の多くはマグネシウム製剤です。これは、吸着性があるものなので腸内への刺激を与えにくいので良しとされています。乳酸菌などの健康補助食品も出ているので上手に活用しましょう。

4.化学物質を避ける

腸内環境を乱す要因のひとつに、化学物質があります。市販で手に入る発酵食品の中には発酵していないものがあり、発酵食品が良いと思って食べているのに、それが逆に化学物質を摂取しているなんてこともあります。
例えばキムチ。韓国では各家庭でキムチを作っていますが、それぞれで味が違いますよね。日本では手前味噌というのがありますが、これも家庭によって味が違います。なぜか?これは、作り手の菌が影響しているということです。さらに、本当に発酵しているものはどんどん味が変化していきます。変化しない発酵食品は、変化しないように食品添加物などで調整されています。
食品添加物の多くは人工的に作られた化学物質です。こういうものを食べすぎると、薬を飲んでいるのと同じ状態になります。抗生物質は特に腸内細菌にダメージを与えますが、同じように食品添加物でも腸内細菌が傷んでしまいます。日頃から化学物質を摂らない生活を心がけましょう。

5.心を落ち着かせる

最大の問題点は実は心の問題です。
意識するとわかると思いますが、私はコロナ自粛でずっと家にいた時は快便でした。出張が緩和されて家にいることが少なくなった時、4泊5日で便が出たのは2日間。しかも、出が悪い。あっという間に便秘になりました。出張から帰ってきて快便になるには3日かかりました。
もう一つ例を挙げると、朝早くすぐに出かけると、便意をもよおすことなく出かけてしまいます。腸は戦闘態勢だと動きが悪いんです。出張から帰ってきて「もうすぐ家に着くな」と思った瞬間に便意をもよおすんですよ。ほっとするんでしょうね。

これは、心の在り方によって腸の状態が変わるということです。「出張どうしよう!緊張する!」という自覚があったわけではありません。自分では意識していない部分(潜在意識)での心の状態を腸はキャッチしています。それが便に反映されるほど繊細なんです。食生活やライフスタイルが完璧な方で便秘の方は、間違いなく心の問題だと思います。

腸内環境の状態は「大きな便り」で。

腸内善玉菌が育まれると快便、悪玉菌が優勢になると便秘になります。快便とは、朝起きてゆっくり過ごした後に「あ!」ともよおし、トイレに座ったらスポーン!と便が出る状態を言います。あまりの快感に鳥肌が出るような感じですね。大きな便りによる大いなる快感です。腸内が絶好調だと便のニオイも臭くなく、むしろさわやかな発酵臭がするくらいで、水にプカプカ浮いていて、色は明るい黄色、流すとバラけていく便です。

<快便の目安>
  力まなくてもスルッと出る
  臭くない(むしろ発酵臭がする)
  (かけらでもいいので)水に浮く
  明るい黄色
  水に流すとバラけていく

 

Colum:生きた菌じゃないとダメ?

CMで「生きた菌が腸まで届く」ということが良しとされるイメージがありますが、そういったうたい文句のものを食べなくても、きちんと発酵させたものを食べて腸の中に1個でも菌が届けば、私たちのおなかの中では一晩で何億という数に増えます。作り置きしたカレーが一夜で腐ったり、6時間くらいでヨーグルトができたりするのは、それだけ菌の増殖スピードが早いということです。
ものすごく小さな菌たちが一切合切胃酸や腸液で死んでしまうということはありません。そこを通り抜けた菌たちが今の皆さんの腸内環境を作っているわけですから。ただ、菌が死んだ状態で腸内に入っても、私たちの腸内細菌のエサになるので無駄ではありません。生きた菌をなるべく取り入れたいのであれば、温度をかけず(60度以内)に調理することをおススメします。

この記事を書いた人

田中佳 医師
ときわ台ときわ通りクリニック 院長/元日本脳神経外科学会認定専門医/日本抗加齢医学会認定専門医/直傳靈氣療法師/整膚師/ISBA(国際シンギングボウル協会)上級認定および認定プレーヤー /ホメオパス(クラシカル)

昭和60年に東海大学医学部卒業後、同大学付属病院脳神経外科助手を経て、市中病院で急性期医療に長年携わる。脳神経外科学会および抗加齢医学界の専門医となり、悪性脳腫瘍に関する研究で医学博士を取得。現在は、食や生活習慣、日用品、心の在り方など多岐にわたる方面から健康への道筋を広く発信している。著書、講演、オンライン講座多数。

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