みそたまり醸造所・南蔵

かつては50軒もの醸造所がひしめき合っていた武豊町。現在6軒の醸造所が協力し合い、味噌とたまり文化を守り続けている。 今回心よく訪問を受け入れてくださったのは、明治五年(1872年)創業、140年以上の歴史を持つ味噌とたまり(醤油)の醸造所・南蔵(みなみぐら) 青木弥右衛門。  

天然醸造木桶仕込み

 蔵の中には、145年物の木桶!現在90樽あるそう。  木桶を縛っているのは竹。伝統工芸の技が光る。昔は武豊にも桶士(おけし)と呼ばれる木桶をつくる職人さんがいたそうだが、ステンレスタンクが主流になるにつれ、桶士という仕事もすたれてしまった。そのため、修理する場合は、竹ではなく金属で周りを縛る。それでも修理代に〇百万円するそう。 樽をつくっている肝心の木は、100年持たせようとしたら伐採して2~3年寝かせてからでないと使えない。しかも、曲がってはいけないため、中心部分の良質な材木を使わないといけない。新たに(100年持たせるような)木桶をつくろうとしたら、300万円はくだらないらしい。

 

  蔵の中に入ると、ほんのり醤油のコクのある香りと、どこか木の優しい香りに包まれた。145年も経っている樽や建物から、木の香りがまだするのだろうか?と疑問に思いつつ、奥へ。

もろみのうえに平たい石を積み、木桶で2夏・足掛け3年発酵熟成させてできる天然醸造のたまり醤油。煙突のようなパイプは、下にたまった液体を上に汲み上げてまた上からかける、というたまり醤油をつくる上では欠かせない「汲みかけ」のためのもの。

 

  そういえば、蔵の外に石が平積みされていた。こちらはすべて自然の石なのだとか。人工的に削ったコンクリートなどはもろく、割れてきてしまうが、自然の石は強い。岐阜あたりの河原から運ばれたと伝えられているらしいが、たいそうな量だ。

グルテンフリーで世界に輸出

昔ながらのたまり醤油は小麦を一切使用せず、原材料は「大豆・塩・水」のみ。現在はJAS規格で20%まで小麦を使用していいことになっている。 南蔵では小麦は一切使用せず、大豆のみのたまり醤油をつくり続けている。 大豆に麹菌を繁殖させてできた醤油麹(通称、味噌玉麹と呼ばれているのだとか)。味噌用とたまり醤油用では、使用する大豆は一緒だが、麹菌の種類を変えている。こちらは醤油用。味噌用の麹の方がもっと大きいらしい。 麹の大きさによっても味が変わるというのだから不思議。

 

「ちょっと苦みがありますよ」と言われたが、食べてみると、大豆を味噌と醤油のあいのこで漬けたような、何とも言えない優しい味。大豆の甘味がまだ残っている。苦みは感じない。 このままおつまみになりそう・・・と心の中でちょっと一杯。 大豆の味をしっかりと感じるのは、丸大豆を使用しているから。たまりに限らず、醤油をつくる上で脱脂加工大豆を使用しているものも少なくない。丸大豆を使用すると、大豆の中に含まれている油分(大豆油)が発酵のジャマをしてしまう。醸造所によって出したい味や効率性が違うため、一言に「大豆」といっても様々。 南蔵では、大豆を丸ごと使用して、味をつくり出している。

この大豆のみでできた麹を塩水に入れて発酵させるが、仕込みの塩水量にも特徴がある。 一般的な醤油麹と塩水の量は1:1。これを十水(とみず)仕込みというが、ここでは麹の量が倍の量になる(麹2:塩水1)、五分(ごぶ)仕込みのたまり醤油も作っている。 五分仕込みにすると、水分量が少ないため、十水仕込みに比べ、できる醤油の量はほぼ半分。しかし、その分深みとコクがあるしっかりとした味の醤油になるという。(ちなみに、丸大豆の五分たまりをつくっている所も数件しかないそう。) 原料の大豆をオーガニック大豆にし、さらに付加価値を付けたたまり醤油は、ヨーロッパでの需要が高まり続けている。オーガニックで五分仕込みのたまりをつくっている醸造所は世界でも2軒しかない。こちらで生産されているオーガニックたまり醤油の半分はヨーロッパへ輸出。昨今、グルテンフリー(小麦アレルギー対応)食品としてたまり醤油が注目されているとのこと。 「Soy sauce(ソイソース)」ではなく、「TAMARI」が国際共用語になる日も近い?! ヨーロッパでは需要が高まっているたまり醤油。実は、国内シェアはたったの2%(2014年出荷ベース)。しかし、世界同様に国内でもアレルギー対応の「小麦を使わない醤油」としての需要は高まりつつある。  

代々「青木弥右衛門」を襲名

なんと、現在の5代目の本名も「青木弥右衛門」さん。創業以来、本名として「青木弥右衛門」を襲名してるそう。先代がなくなると、裁判所に行き、申請をして名前を変える。 伝統としてずっと続けていないと現在は認められないため、一度でも途絶えたら襲名をすることができなくなる。歌舞伎の世界でも、本名と芸名とで分かれている中、戸籍上の名前から変えてしまう伝統をつないでいるのは全国でも本当に珍しい(というか、他にあるのか?)。 大学を卒業した25歳の息子さんが6代目「弥右衛門」さんになる頃、あの木桶はまだまだ現役であの深みとコクを生み出しているだろうか。  

たまり3種味比べ

右から、国産天日塩「海の精」100%使用した「わらべうた」、「わらべうた」を絞った後さらに絞りをかけた「つれそい」、スッキリとして濃口醤油に近い「なじみ」。 店舗では醤油の販売もしていて、小瓶で味比べをしてみるのも面白い。3年番茶の中にひとたらししたお茶をいただいたが、昆布茶のようなうまみがあるなんともおいしいお茶だった。 (たまりは大豆100%でできているため、大豆のアミノ酸=うまみ成分がもっともよく感じられるため、昆布だしのようなうまみが感じられる。) 刺身や豆腐へのかけ醤油が一番だが、煮物の最後にちょっと加えると、グンッ!とコクが出ておいしくなる。 私は東北出身なので、元々たまりは全くなじみのない醤油だったけれど、イタリアやスペインの家庭が何種類もオリーブオイルを使い分けるように、日本の家庭が何種類もの醤油を使い分けるような文化がもっと広がったらいいなぁ。

Information
南蔵商店 青木弥右衛門
住所
愛知県知多郡武豊町里中58番地
TEL
0569-73-0046
その他
※常時開放しているわけではなく、興味のある方にその都度ご案内してくださっています。もし見学を希望される方は、必ず南蔵さんへご連絡をお願いいたします。

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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