食も環境も守る 持続可能なエビ養殖:結のエビ

 

長いヒゲと曲がった腰が長寿の老人に似ていることから、長寿の象徴となったり、結婚式や新年などの祝い事に欠かせないエビ。国内で流通しているエビは、ほぼ輸入の養殖エビであり、その量は国内漁獲量の10倍を超えている。日本人が大好きなエビが、世界各国の海の環境に影響を与えている。

 

祝いのエビがマングローブを破壊する?!

マングローブは熱帯や亜熱帯地域で、真水と海水が混じり合う汽水域に生える植物の総称。海風から陸を守る防波堤であったり、「海の命のゆりかご」と称されるように、多くの生き物を育んだり、建築材や燃料材などに利用されたりしている。この地域で暮らす人々にとっては里山のような存在である、いわば、「海の森」。世界の森林面積の0.4%と狭いものの、二酸化炭素の吸収能力は高く、熱帯雨林の3〜4倍も吸収することが報告されている。

しかし、そんなマングローブは年に約1%ずつの面積が消失していると言われ、開発が盛んだった1980年代に、マングローブの85%が無くなった国もある。東南アジアのマングローブが激減した最大の理由は、エビ養殖への転換だと言われていて、そして、そのエビの最大の消費国は当時の日本だった。 1つの養殖池で非常にたくさんのエビを飼うため、エビに過度なストレスがかかり、病気を誘発。予防のために投与された抗生物質や、エサやフンの堆積により、養殖池の環境が悪化するため、養殖池は早いもので3年、だいたいは10年以内に使い物にならなくなるそう。養殖池の再生を図るのは難しく、新たにマングローブが切り開かれるという悪循環が生まれていた。祝い事や縁起のいい食材として食卓に並ぶエビが、環境を破壊しているという現実がある。

 

水を100%循環させる養殖システム

タイ王国で養殖業を営むニタヤファームと、微生物(EM)技術指導を行っているEMROASIA社では、EMを活用することで、養殖池に薬剤を使用せず、水を100%循環させたエビ養殖システムを確立させた。EMROASIAの小正路徹さんが現場の責任者として働いている。

「環境を汚さずに、健康でおいしいエビを、みんなで心を込めて育てています。」とEMRO ASIA Co.Ltd の小正路徹さん。

 

「エビの養殖が盛んな地域は中国、東南アジア、南米の国々ですが、10年程前にエビが早期死亡する病気が中国から発生し、東南アジアにも拡がりました。そのため、養殖ではエビの病気と死亡を防ぐための薬品が色々と使われています。そもそも、過密状態で養殖するため、エビに過度なスト レスがかかり、病気になりやすいんです。 エビが早期死亡する原因は、エビの体内に棲みつく細菌によって引き起こされます。養殖池の水とエビのエサにEMを入れると、水中の大腸菌や病原菌が減り、エビの腸内微生物叢(そう)の多様性が保たれます。その結果、病気の蔓延を防ぐことができています。」

 

広大な土地に作られている養殖池

 

「養殖池の底には、エサや排泄物などの堆積物が溜まり、水が汚れるので水の入れ替えが必要です。多くのエビ養殖農家は、養殖場の外に汚水を捨てるため、周辺の水環境が汚染されます。そこで、ニタヤファームでは堆積物を吸い上げ、EM技術と砂ろ過装置を使って浄化する完全な循環システムを採用しています。 養殖場の中で水のリユースができれば、同じ土地で長期的に養殖事業が可能です。この環境汚染や破壊のない循環型モデルは、同時にエビの病原菌の感染リスクも減らすことができます。」

 

 

海にもエコラベル

農作物で有機JAS認証や特別栽培などの制度が進む中、近年、水産物にも認証制度の導入が拡がっている。持続可能な漁業で獲られた水産物に表示される「MSC/ASC認証」や「MEL認証」などがある。 ニタヤファームで養殖しているエビは「結のエビ」と名付けられ、日本に輸出されているが、2020年に「BAP認証」を取得した。BAP(バップ:Best Aquaculture Practices)認証とは、いわば「持続可能な養殖水産物に認められた国際的な認証制度」。食品表示だけでは判断できない、養殖水産業の生産工程に関わる全ての段階・事業者(飼料工場、ふ化場、養殖場、加工工場)において、持続可能性、動物の健康と福祉、食品安全、社会的責任に配慮していることを示している。 BAP認証は、養殖を4つの生産工程に分け、施設ごとに認証するシステム。認証を受けた施設を経た数によって、星の数で表す仕組みになっている。結のエビは、以下の3つ星を取得している。 消費者が海のエコラベルの付いた海産物を購入することは、おいしい魚介類を食べ続けるための未来への投資でもある。

 

 

元気に育ったエビをそのまま冷凍

実は、冷凍エビには、収穫後にも添加物を使用するのが一般的。保水剤でエビのプリプリ感を出したり、殻付きのエビが黒くならないように黒変防止剤、発色を良くするための漂白剤や発色剤などが使用されている。また、バナメイエビ(結のエビで使用しているエビの種類)は水を吸いやすい性質があり、水揚げをして、冷凍する前に水につけて、身を大きく見せるということもされているそう。 結のエビの養殖池の近くには、冷凍加工会社があり、収穫する時に合わせて加工場を空けていてもらい、収穫後すぐに瞬間冷凍している。

無投薬の循環養殖池の中で元気に育った結のエビは、養殖特有の臭みがなくエビ本来の味があると人気。

 

ニタヤファームでは、タイの方を中心に、ミャンマーの方々が住み込みで、三食を共にして養殖場で働いている。病気を外から持ち込まないという意味もあるそうだが、みんな家族のように暮らしている。「みんなで真心こめてエビを育てています」と小正路さん。 BAP認証「食品安全」にもある通り、化学薬品は使用せず、食品添加物も使用していないが、愛情たっぷりで育てられている。

 

 

EMROアジア社では、このエビ養殖モデルを世界に拡げていくため、様々なデータを収集し、科学的な研究成果とエビ養殖のノウハウを蓄積している。養殖から加工まで、「無添加」を貫く結のエビ。日本人のエビ好きがマングローブを破壊していた時代が終わり、水を汚さず、環境を破壊しない養殖システムが拡がることで、祝いの席を飾るエビが人と地球の笑顔を生み出すようになる日も近い。

 


暮らしの発酵通信」13号掲載

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結のエビ

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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