醤油づくりから広がった米づくり:松田かよさん

松田かよさん(長野県/主婦)

天然醸造って面白い

「土を触ることすら、ほとんど経験がなかったんです。」と語るのは、長野県にお住まいの松田かよさん。農家出身ではないが、三人のお子さんを育てながら約6反(約1800坪)もの田んぼの管理をする。細身の体からは考えられないほどパワフルに農作業をするようになった背景には、どんな物語があったのだろうか。 「田んぼをやるきっかけとなったのは、お醤油づくりでしょうか。近所で自宅を開放したお醤油づくりの教室をやっていると聞いて、面白そう!と思って参加しました。その会を指導している方が天然醸造の大切さを伝えてくださって、その中で食品添加物のこと、農薬のこと、化学肥料の問題と、知りたいことが広がっていきました。長女のゆうかがアトピーで、参加している他のお母さんたちも同じ不安を抱えていたので、じゃあみんなで勉強しようとなって、アトピーの会を立ち上げました。」

しばらくして、そこの場所では醤油づくりが続けられなくなったため、松田さんはアトピーの会で知り合ったメンバーたちと新たな醤油づくりの会を立ち上げる。「こめはなの会」は、醤油づくりに欠かせない糀が「米」と「花」と書くことにちなんで名付けた。 「最初のお醤油づくりから考えると、かれこれ10年くらい作っているのかな。今も40人くらいの参加者で、皆でわいわい仕込んでいます。毎年、味わいが違って面白いです。一度、納豆菌が入ってしまい、納豆臭い醤油になったこともあります。あの時は、もう納豆用の醤油としてしか使えませんでした(笑)。」 アレルギーの会で学ぶにつれ、松田さんの「子どもたちに安全なものを食べさせたい」という思いは強くなっていった。農家から無農薬の野菜や米を購入し、生産者から微生物や健康の話などを聞き、様々なことを吸収した。「私の義母は、家庭菜園が好きで野菜を作っていたんですが、農薬や化学肥料のことを伝え続けていたら私のやりたいことを理解してくれて、今では良き協力者です。」

 

食で体は変わる

無農薬の米や野菜が食卓に上るようになり、お子さんのアトピーは改善していった。「こんなにも食で体は変わるのか!」と感動した松田さんは、次の瞬間には「作りたい!」と思いはじめていた。「ずっとお米を買わせてもらっている農家さんに、米作りを教えてくださいとお願いしに行きました。虫は嫌いだし、田んぼはおろか家庭菜園すらやったことがなかったのに、無謀ですよね(笑)。でも、お醤油教室に参加しようと思った時と一緒で、「やりたい! なんか面白そう! 」って思っちゃったんです。直感のままに生きているんでしょうね。」

その時紹介されたのが、となりの村で10年以上、農薬や化学肥料、除草剤などを一切使用しない米作りを手掛けていた園原久仁彦さんだった。その農法を学ぶ講座があると聞き、松田さんは友人と参加を決めた。園原さんに田んぼを借り、2人で田んぼを始めることにした。「やり始めたら、すっかりハマって今は田んぼが楽しくてしょうがないです。前の年に収穫したお米の中から種もみを残して、翌年にもみを蒔く。小さなもみがどんどん大きくなってお米になって、子ども達が大好きなご飯になる。この楽しさを子どもに伝えたいし、私みたいなド素人でもお米が作れることを知ってもらって、 田んぼに関わる人をもっと増やしていきたいです。」専業主婦の傍ら、自分で作ったお米を原料に玄米もちの販売も始めた松田さん。楽しそう!という直感に素直に従って、今後ますます仲間を増やして活動の輪を拡げていきそうだ。

 

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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