「いただきます」は「ありがとう」

 

愛知県名古屋市を拠点に「内から健康でキレイになる理論と料理を学べる」料理教室(クッキングスタジオ・CHIE’S KITCHEN)を主宰している廣瀬ちえさん。食を通じて幸せを分かち合うをテーマに、人生を、社会を、より豊かに彩るライフスタイルを提案している。

 

食べることはつながること

ライフスタイルの多様化によって、「食べる」ことの目的が人によって大きく異なっています。「空腹を満たすため」「健康になるため」「おいしく食べたい」「楽しく食べたい」。どれが正しいか間違っているかではなく、「食べる」という行為の絶対的な共通項は、「私たち人間は、何かを食べて生きている。食べたものからでしか、私たちの細胞は作られない。」ということです。それを踏まえた上で、【何を】【どう】【誰と】食べるかが、それぞれの目的によって変わってきます。

 

私たちの体は約37兆個の細胞からできていて、細胞は日々入れ替わっています。その細胞の材料となるのが、「食べたもの」。どんな細胞を作りたいかによって、食べるものを変えていけばいいんです。健康になりたいのであれば、食材選びから始めるし、体に負担をかけたくないなら酵素を摂り入れるし、肌をキレイにしたいなら油を替える必要があります。 自分の体が今どんな状態で何を求めているか、食事を通して細胞ひとつひとつに何を届ける必要があるのか?を考えることがとても大切です。自分の細胞と対話するようなものですね。 「食べる」という行為は、自分一人で解決しているようにも見えますが、そうではありません。自分の細胞との対話、食材との対話、食材を育ててくれた人や調理してくれた人、一緒に食べてくれる人との対話、様々なつながりの上に成り立っています。食べることは、他者とつながる行為なんです。

 

8万回の感謝を楽しもう

「食」が自分一人では成り立たないものだと思うと、「感謝」が生まれてきます。しかしながら、在宅勤務などが増え、家族が家にいる時間が多くなり、家族分の食事を毎日3食作らないといけないのが大変で苦しくなってしまっている方も多いそうです。食は、自然と感謝が生まれる行為なのに、それが不平不満へと変わってしまう。人間は、一生のうちで約8万回の食事をするそうです。

8万回の行為をイライラして過ごすか、楽しく感謝して過ごすかは自分次第です。子どもがいて大変!と思うかもしれないけれど、不妊で悩んでいる方もいるわけで、その方からしたら、子どもがいること自体が感謝になります。今この環境にいるのがありがたい、一緒に食べてくれるのがありがたい、どう感謝できるかは、意識の持ちようです。 一人でご飯を作るのが嫌なら、子どもと一緒に作るとか、外食するとか、お総菜を買うとか、食を楽しむ方法はたくさんあります。作るにしても買うにしても、食を選ぶ目と知識があれば、毎回全部作らなくていいし、手を抜くツールをいくつか用意しておけばいいんです。 ただ、体はもちろん、感情も脳内物質が関与していて、その物質も自分が食べたものでできているので、何を選ぶかはとても大事です。食べるものをちゃんと選んで、余裕がある心と体になったら、自然と感謝は湧いてくるし、そうしたら食がもっと楽しくなります。 料理をすること自体が苦しかったり辛かったりする方は、料理で楽しい体験をされていないのかな?と思います。私は、そんな方こそ料理教室に行って、「料理ってこんなに楽しいんだ!」という経験をしていただきたいですね。

 

環境をどう整えるかは自分次第

私は常に、「環境をどう整えるか」ということを考えています。自分の細胞の環境、食材が育った環境、誰かと食卓を囲む時の環境。食材は自分で育てているわけではないから、自分が良いと思う環境で育った食材を選びます。農家さんや醸造家さんを訪問してお話を聞き、その環境を知ります。

「自分はこの先、どういう環境に身を置きたいか」をイメージすることで、今やらないといけないこと、今やらなくてもいいことは見えてきます。例えば、私は好きで料理の仕事をしていますが、家のご飯を作りたくない時もあります。そんな時のために、「自分以外の誰かがご飯を作ってくれる環境にするにはどうしたらいいか」を考え、旦那さんに料理の仕方をレッスンしておくんです。教えるよりも自分で作った方が時間はかからないんだけれど(笑)、自分の理想とする環境に身を置くためには必要な時間なんです。 もっと大きく言うと、「どんな社会で生きていきたいか」も選択できます。冷蔵庫や食品添加物は、「保存性を高めたい」という私たち消費者の目的によって出てきたものです。私たちの選択(購入)が社会をコントロールしているとも言えます。だから、今何を選び、どんな食を作っている人を応援するかで未来は決まってくるんです。 体で考えたら、口にしたものすべてが自分や家族の細胞となり、それが積み重なって未来の心と体になるということです。「こんな体になりたい」と思ったら、日々の食事を整えることが大切だとわかりますよね。

 

食は最も変えやすい「環境」

自分を取り巻く環境(現状)を変える、というと、とても大きなことを考えてしまうけれど、食は「一番変えやすい環境」だと思います。多くの人は自分で選んだものを食べているわけだから、一回一回何を選択するか、完全なる自己責任の行為です。 CHIE’S KITCHENでは、料理教室だけではなく、ファスティングや栄養学の知識も交えた講座を開催したり、病院と提携して採血をし、その人自身にあった食事指導などもしていますが、みなさんどんどん若返ってみるみる元気になっていきます。体が変わると心も変わります。

女性は特に、目の前のことをこなすことで頭がいっぱいになってしまい、より先の未来を見失いがちです。理想の体のために、今いる環境の中のベストの食を選択できるようになってほしいです。そのためには、知ることが大事。細胞の成り立ち、体のしくみ、食材の栄養素や組み合わせ方、調理法…。学ぶことで、食の選択がラクになり、食事がもっと楽しくなります。 毎日のことだからこそ、見つめ直しにくい「食」。自分なりの「食べる目的」を見つけてみてください。

 


 廣瀬ちえ

CHIE’S KITCHEN 代表 べっぴんプラス株式会社 代表取締役 料理家・栄養士・講師・フードディレクター・一般社団法人分子整合医学美容食育協会 フードファスティングマイスター特別顧問・一般社団法人豆腐マイスター協会理事

食のスペシャリストとして、「食を通じて幸せを分かち合う」をテーマに料理教室を主宰する他、企業、地域、学校での講演・クッキングセミナー等を各地で開催。また、食に関わる商品開発、飲食店メニュー開発などのフードコンサルティングも行う。栄養学・細胞学・マイクロビオティック・東洋医学を総合した独自の理論と料理を提案「ココロとカラダが喜ぶ創造性豊かなレシピ」が、幅広い層の支持を得る。

▼CHIE’S KITCHEN▼

暮らしの発酵通信」特別号掲載レシピ 

▼サバそぼろご飯▼


暮らしの発酵通信」特別号掲載(取材:2020年9月)

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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