【開催レポ】三重県発酵ツアー開催

1軒目の訪問先 東海醸造さんにて。

コロナウィルスの関係で、イベントが続々と中止になる中、善玉菌にまみれて免疫力を高めよう!と、2020年3月6日(菌曜日)に三重県発酵ツアーを決行。 初の三重県ツアーということもあり、発酵に詳しい方々が多く参加してくださった。  

 

訪問先① ひとつの木桶から味噌とたまりを生み出す「東海醸造」

まず最初に訪れたのは、鈴鹿サーキットで有名な鈴鹿市で300年以上続く老舗の醸造所「東海醸造」。

醸造蔵の前にはドドーン!と大きな木桶

 

蔵人の本地猛さんは、味噌の発酵のメカニズムや菌の話、歴史など、マニアックな知識を広く深くお持ちの方。 「三重県は伊勢湾に沿った縦に長い地形をしていて、南伊勢、中伊勢、北伊勢と文化がわかれています。」と、三重県の食文化と伊勢神宮との関わりなど、その地域ならではのお話が盛りだくさん!

東海醸造の本地さん。広く深いお話にみんな興味津々。

 

もともと、味噌と醤油は同じ桶から作られていて、「もろみ」と呼ばれる状態から分離された固体が味噌、液体が醤油だった。現代の豆味噌とたまり醤油をつくる醸造所では、麹を作る段階から味噌用・醤油用と分けて作っている。それは、歴史的な法律の流れもあってのことらしいが、東海醸造では、現在も一つの木桶から味噌とたまりが作られているのだというから興味深い。

ベルベットのじゅうたんを敷かれたかのような、木桶の表面。

 

今回は特別に、木桶の栓を抜く体験や、“搾りたて生!”のたまり醤油を味見させていただいた!

最低3年は熟成させているという、たまり醤油は、濃厚なうまみと甘みが凝縮していて、甘みを足さなくても、これだけでみたらし団子のたれになりそう!大豆と塩と水がこんなにも変化するなんて!こんなに醤油が飲めるなんて!と皆さん感動の嵐。

すべて木桶で仕込み、木の道具も大切に使い続けている。

  東海醸造 三百年蔵>>  

 

訪問先② 「特徴を出さないのが特長」の伊勢蔵

2軒目は、かつて大阪と江戸を結んだ東海道沿いに蔵を構える「伊勢蔵」。

店の前は東海道。かつて人々が行き交った通りには今は車が行き交う。

 

「蔵としては100年以上経っていて、他業種さんからすると老舗なんですが、醸造業界の中では300年、800年の蔵元さんが結構いるから、うちはまだまだ若造なんですよね(笑)」と4代目の式井一博さん。実家の味噌蔵を2019年に引き継いだ、若き発酵MEN。伊勢蔵の味噌と醤油の特長は「特徴を出しすぎないこと」だそう。

「味噌を摺った時の滑らかさによっても味わいが変わるんですよ」と式井さん。手に持っているのは、味噌を摺るための機械の網目皿。

 

一言に「豆味噌」と言っても、その作り方や味は蔵元によって全然違う。最も特徴的な豆味噌と言えば、愛知県岡崎市の「八丁味噌」だろう(八丁味噌の故郷を訪ねて>>)。酸味や渋味さえ感じる味噌の味に、好みがわかれるところ。 伊勢蔵の味噌は、豆味噌の中でも、米味噌に近いような食べやすさ。豆味噌を食べたことがない人でも、とても親しみやすい味噌のように思う。

 

蔵の中で、豆味噌の味比べ。

 

伊勢蔵では、味噌の他にも、濃口、淡口、白醤油なども醸造している。濃口醤油とたまり醤油は木桶で仕込み、白醤油はタンクで仕込む。というのも、白醤油の最大の特長は「色がついていない」こと。木桶で仕込むと色がつきやすいそうなので、敢えてほうろうのタンクで仕込んでいるという。「特徴を出しすぎない」と表現されていたけれど、「伊勢蔵が出したい味」を追究し続けている。

醤油を絞る工程の体験もさせていただいた!茶色いものが、絞る前の「もろみ」。

 

蔵に隣接された店舗では、今では珍しくなった味噌の量り売りも。少しずつ色んな種類を楽しめるし、お店の人との会話もまた、味噌の味に奥行きを持たせてくれる。

蔵元 伊勢蔵>>  

 

訪問先③ 三重県下のたまり文化を支える「岡本醤油部」

最後におじゃましたのは、伊勢蔵から車で20分ほどのところにある「岡本醤油部」。「岡本さんのところもいい醤油をつくるし、なかなか見学受け入れをしていないから、ぜひ紹介するわ!」と、東海醸造の本地さんを通じて訪問させていただいた。

「部」という部活動のような会社名を不思議に思い、岡本和也さんにお伺いしたら、元々は米屋とお茶の製造をしていた会社で、味噌醤油の製造を始めた時に「醤油部」という名がついたのだそう。昔は「部」がつく名前も多かったのだとか。

岡本醤油では業務用の醤油がメイン。小売り流通がほとんどないため、三重県内でも一般消費者には馴染みがない醤油蔵だけど、業務用の濃口&たまり醤油で、三重県下の食文化を支えている。

機械もデカい!

 

また、「五分たまり」というたまり醤油を木桶で醸している。「五分たまり」とは、醤油をつくるための麹の量に対し、50%量の塩水で仕込む醤油。水分(塩水)が少ないため搾れる量が限られ、コストも高くなるが、その分、超濃厚なうまみが濃縮される。

醤油というよりも、味噌のような表情をしている五分たまり。

 

「岡本さんの五分たまりにはかなわない!」と他の醤油蔵も太鼓判を押すほど。「みんな作らないから、売れるから作るんだよ(笑)」と岡本さん。そんなキャラクターも親近感が沸いてくる。

三重の食文化を守る、三重県木桶たまり三兄弟!

 

岡本醤油部>>  

 

三重県の味を全国へ!

「岡本さんのところには小売り用の商品がないから、どうしても作ってください!とお願いして、やっと作ってもらったんですよ(苦笑)。ここ(岡本醤油部)の近くの大手スーパーの三重県物産コーナーに置いてもらっています。」と、三重県醤油味噌工業協同組合 営業部 課長の服部琢也さん。 三重県では醤油味噌の組合に営業部があり、三重県下の醸造所の味を積極的にPRしていく部門があるというのだから驚き。服部さんは、「三重県下の蔵元さんとはほぼすべてつながっているので、また三重県に来てください」と。

岡本醤油部で、再び本地さん(東海醸造)と式井さん(伊勢蔵)も合流してくださった。後方右が服部さん。

 

  三重県は、海があり山があり川があり、伊勢神宮や熊野古道、食材と歴史文化が溢れる素晴らしい地域。また素敵なご縁をいただいたので、三重県の発酵も様々な形でご紹介していきたい。

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

関連記事