どこにいたって楽しいことできるよ。:是枝麻沙美さん

沖縄本島からフェリーで1時間半、沖縄県の有人の島としては最北端の伊平屋(いへや)島。人口約1,200人、車で40分ほどで島が1周できる。是枝麻紗美さんはそんな小さな島に移住し、村の木「クバ」の葉を使った民具を作っている。クバと島の生活を通して見えてきた生き方とは。  

 

東京のスタイリストから離島のクリエイターへ

ここ伊平屋島に来て3年半くらいかな20歳から東京でスタイリストの仕事をしていたんですが、雑誌とか広告とか色んなことをやっていたので、すっごく忙しかったんです。睡眠3時間とかね。でも、シーズンオフは1ヶ月くらい連続で休めたので、よく海外旅行に行ってました。 ファッション業界の雑誌って、最終的にはコンサバ系の服に落ち着くところが多いんですよね。OLさんみたいな、カシっとした服。でも、個人的にあまり好きじゃないから、これを一生の仕事にしていきたくなかったんです。心のどこかで、「いつか民宿をやりたいなぁ」っていう想いがずっとあって、島への憧れもあったから、仕事を辞めて沖縄の伊良部島に移住したのが7〜8年前です。

伊平屋島の最北端にあるクバ山。クバの葉だけが生い茂る。

  伊良部島で店をやっている人と結婚したんだけど、子どもができて、店の手伝いができなくなりました。それで家にいる時間が長くなったから、見よう見まねで植物の葉を使った民具作りを始めたんです。やってみたら、そのおもしろさに取り憑かれてしまって。スタイリスト時代の友人が東京にいるから、作った作品を雑誌に取り上げてくれて、徐々に注文が入るようになりました。伊良部島を離れることになった時、これで生計を立てていこうって思ったから、植物があるところを探してたどり着いたのが伊平屋島だったんです。移住の相談にのってくれた友人たちからは「僻地すぎる」って大反対されたけど(笑)。  

 

「生活の島」で仕事と子育て

伊平屋島は沖縄の離島の中でも僻地。フェリーは1日に2便しかなくて、ものを動かすにも物流が悪いし、私が作るものは島の人が買うものでもない。観光業も盛んじゃないから、「生活の島」って感じ。でも、そこがすごくいいんです。 伊良部島にいた時は、観光シーズンのオンとオフの忙しさの差が激しかったんです。東京で働いていた時も、オンオフがハッキリしているような働き方をしていたから、自分は違う生活の仕方を目指していて。家事しながら、子どもを育てながら、仕事しながらの暮らし方がしたいなって思っていました。それができる環境ってなかなかないんですよね。

伊平屋島の人たちって、いい意味でのんびりしているんです。移住者に対してもすごく優しくて。うちは娘と二人暮らしだから、「大丈夫?」って気にしてくれるし、娘が初めて一人で歩いてお散歩に行った時も、知らないお爺さんが、泣いている娘を家に連れて来てくれたり。私が仕事で外に行かなきゃいけない時は娘を友人に預けていけるし、その逆もあります。公民館でみんなで夜ご飯を食べることも多いんですよ。島の子どもたちを島のみんなで育てている感じがします。  

 

生活道具の循環、島の循環

こんな僻地でものづくりをしていても、この間、沖縄県工芸公募展でデザイン賞をいただいたんです!入賞した方々は、伝統工芸品の作家さんが多くて、生活雑貨を中心とした民具で賞をいただいたのは私だけ。クバの葉の籠は、元々は水をくむためのバケツとして使われていて、貝やサンゴが重石としてつけられていました。私が作るものは、ほとんどオリジナルで、現代風にアレンジをしているけれど、貝やサンゴをつけるのは、私なりの民具への敬意なんです。

貝もクバも自然のもの。自然の美しさを感じてほしいな。私が作っている作品には、化学的なものを使っていないので、最終的には土に還るんです。伊平屋島でもそうだけど、海岸に大量のプラスチックが流れ着いているのを見ると、悲しい気持ちになるじゃないですか。 「種水土花(しゅみどか)」という名前を屋号にしたのも、循環するものを伝えたいという想いから。

種と水と土があったら花が咲くでしょう?そこからまた種がこぼれて、土に落ちて、そこに水があったらまた花が咲く。クバは花が咲かないけど、循環型の生活道具なんですよね。 伊平屋島そのものが、村内循環している部分が多いです。アクセスが悪いから、外から何かが入ってくることとか外に出すことがあまりなくて。村のお弁当屋さんでも、誰々さんが育てた野菜ということがわかってる。コンビニがあったら、そこで買う人が増えて、村のお総菜屋さんとかがつぶれちゃうし、村で作られたものが消費されなくなってしまう。買う店がないから、あるものを使って何とかしようって頭が働くしね。  

 

生き方、楽しみ方イロイロ

高校生の時に「Think Global, Act Local(地球規模で考え、地域で行動する)」という言葉に出会いました。鹿児島の高校を出て、東京でいろんなものを吸収して、今伊平屋島にいて思うのは、今の時代は田舎からでも世界に簡単に発信ができる時代だし、どこにいたって楽しいことってできるんだってこと。やっている人はやっているし、そうした意識の人たちってけっこうつながっているんですよね。こうやって人も来てくれるし。 私は移住者で、この島に住まわせてもらっているから、島からの依頼には極力協力させてもらっています。例えば、地域で伝統文化のものづくり講師を担当しています。クバの葉を使って浮き球とかバッタの飾り物とかをつくるんです。それを通して、子どもたちには、島の素材を使ってこんなものが作れるんだ!っていう、生きていく術みたいなのを学んでもらったらいいなーって思っています。

あと、この島に、私みたいにものづくりをして生きている人ってほとんどいないんですよ。島を出てどこかに勤める、という以外の違った生き方のサンプルになればいいなとも思っています。

 


2019年11月取材 「暮らしの発酵通信」11号掲載

Information
種水土花
住所
沖縄県島尻郡伊平屋村

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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