【開催レポ】発酵ワークショップ第一弾「生塩こうじ」づくりに参加

インフルエンザや新型肺炎の流行が世間を騒がせている昨今、免疫力をつけることが何より大切かもしれない、と思い始めている。そんなタイミングで知ったのは、EMホテル・コスタビスタ内の「暮らしの発酵カフェ」で定期開催されることになった発酵ワークショップ。その第一弾である「生塩こうじ」づくりに参加してきたので、その中で得たいくつかの気づきをシェアするためのレポートです。

 

発酵はミステリアスな微生物の働き

2020年から毎月第4水曜日、発酵をテーマにしたワークショップが開催されることとなった。 会場はEMホテル コスタビスタ内「暮らしの発酵カフェ」、ホテルの入口を入ってすぐ右手側に、前面リニューアルして新しく生まれ変わったショップとカフェが迎えてくれる。白と自然な色合いの木材を基調とした店内は、まるでおしゃれなギャラリーのよう。美しくディスプレイされたEM関連商品などを、実際に手に取ってお買い物できる貴重な場所だ。

カフェもメニューがリニューアルしたそうで、発酵食品を使った料理やランチプレートなどが楽しめる。敷居が高く感じがちのホテルのカフェというよりは、気軽に普段使いしたくなるような雰囲気だ。 わくわくしながら受付を済ませると、ドリンクメニューを渡される。ワークショップの参加費は2000円なのだが、なんとこちらは容器を含む材料費とワンドリンク付き、という太っ腹!コーヒーやジュースの他にも、発酵ドリンクであるコンブチャがあるのがうれしい。

今回オーダーしたマンゴー味のコンブチャは、発酵による微炭酸のシュワシュワと爽やかな甘みのマンゴーの味が絶妙で、クセがなくとても飲みやすかった。

 

麹は生きている

まずは、ちょっと耳慣れない「生塩こうじ」というものについて。

塩こうじという調味料なら聞いたことがあるし、買って使ってみたこともある。ヘルシーでまろやかな旨味がブームのきっかけとなった調味料も今や定番、スーパーで簡単に買えるようになった。 比較的新しいのかと思いきや、実は日本の伝統的な調味料なのだそうだ。材料は非常にシンプルで、「塩」と「こうじ」のみ。そう聞けばふ~ん、と流してしまいそうだけど、そもそも「こうじ」って一体何なの?というところから、ワークショップはスタートする。 講師は、独自に発酵の研究を行っている相良先生。まずは座学から、そもそも発酵とは?という基本的な疑問からはじまる。

先生によると、「発酵」という概念はあくまでも人間側から見たものだそう。発酵を一言で説明すると、「微生物によって有機物が分解され、飲食可能な物質を生成し、変化する」という現象のこと。対して有機物が分解され有毒な物質や悪臭を伴う変化が起きた場合は、「腐敗」と呼ばれる。そのプロセスと微生物の働きという点は同じでも、菌によって変化した物質が違ってくる。

「発酵」したものを食べれば、身体によい影響を与える酵素や微生物を取り込むことができ、「腐敗」したものを食べれば、有毒成分によってお腹を下したりする。例えばカビひとつとっても、有毒なものもあれば、青カビチーズのように美味しく頂けるものもある。つまり、「微生物」や「菌」の種類が大切、菌こそが発酵食品の元であるということだ。

今回のワークショップで使用するのは、「こうじ(麹または糀)菌」(学名Aspergillus oryzae)と呼ばれるもので、なんと日本を代表する微生物を意味する「国菌」に選ばれている、エライ菌なのだ。わが国の風土にマッチするこの菌は、日本独自の菌として古くからなじみのある存在で、室町時代には既に発見されていたという話もある。

こうした菌は大切に受け継がれ、「もやし屋」と呼ばれる種麹屋さん、つまり菌のプロの手によって培養・販売されている。つまり、日々食べている味噌や醤油を製造するメーカーは、こうした種麹屋さんより菌を入手しているわけだ。その培養方法は、米や麦、大豆といった穀物に種麹(コウジカビ)を付着させ繁殖させる、というもの。コウジカビにはタンパク質をアミノ酸、つまりうま味成分へと分解させる性質を持ち、特に米麹は消化酵素を出して胃腸の働きを良くする作用もあるそうだ。なかなか素敵な存在じゃないか、コウジカビ。

 

麹菌にも個性がある

麹菌と一口にいっても、いくつか種類がある。例えば醤油、みそ、酒などに使用されるのは黄麹菌。泡盛には黒麹菌。焼酎には白麹菌や黒麹菌などが使用される。それぞれの菌には個性があり、たとえば黄麹菌はデンプンを強力に分解する特徴があり、黒麹菌はタンパク質の分解に強く、クエン酸を発生させる。 こうした菌の特性を活かし、古来より日本人は菌に合った発酵食品を作ってきたわけだ。つまり、菌と人間のコラボワーク、それが発酵食品なのだ。

ちなみに、今回の塩こうじというものは、黄麹菌を米に繁殖させたもの。沖縄でよく食べられる、チーズのようなコクのある「豆腐よう」は紅麹という赤い色が付く菌を使用しているそうだが、昔は黄麹を使って作られていたそうだ。 さらにいえば、この麹には「生」と「乾燥」の2種類がある。今回は相良先生こだわりの「生麹」を使って塩こうじをつくることになる

生麹は「生」というだけあって、生きている菌なのだそうだ。見た目は白いお米のまま(生の米のツヤ感はなく、マットな白)で、もちろん動いたりはしない。 でも、少しつまんで口に含んでみると――フカフカとした感触の中、なんと、ほんのり温かく、甘みを感じた!もちろん、主観的な意見であって温度は私の勝手な思い込みかもしれないが、そのかすかな温かさは、ああ、これって生きているんだ!という実感を与えてくれるに十分だった。

ちょっと米麹を可愛く思えるようになったあとは、さて、肝心の塩こうじ作りがスタート。レシピはとっても簡単で、生麹を入れた容器に、塩と水を加えて終わり。 ちなみに今回使用した塩はEM てぃだの生塩で、海水を天日干しした自然なもの。生こうじも、先生おすすめの那覇の麹屋さんから仕入れたものだそうで、材料はオーガニックかつ生産者の顔が見える、こだわりのラインナップだ。 さて、仕込んだ後は、毎日一回程度フタを開けて中身をかき混ぜる、それだけ。

一週間ほど常温で置いておけば、発酵が進んで美味しい塩こうじを楽しむことができる。

ちなみに、今回のワークショップで使用した容器にも秘密があった。こちらの容器は「エンバランス」というもので、「微生物群が作り出す有用な働きをプラスチックに付与させる技術」(embalance.jpより引用)が使用されている。もう少し説明すると、使い捨てされるプラスチックの製造に疑問を持った企業が、もっと未来のためになるものづくりをしようと決意して生み出されたのがエンバランスという加工技術なのだそうで、それは「ミネラルを含んだ良質な水とプラスチックの原料を、水熱科学の理論を用いて反応させた特殊な加工技術」(embalance.jpより引用)なのだそうだ。

つまり抗菌剤や殺菌剤などの薬品を含まないので、人体にとても安全な商品だということだ。また、材料自体に加工が施してあるため、長く使用しても効果が薄れたりすることもない。大切に、長く使えるプラスチック製品が、このエンバランス容器なのだ。 暮らしの発酵ショップでも購入可能で、サイズや形もいろいろある。もちろん、参加者は今回使用した容器を持ち帰ることができるのだが、この容器、定価が約1500円――特別な生こうじ、ドリンク、容器もついてくる、このワークショップ。あらためて、すごくお得なことに気づいてしまった!

 

手作り発酵食品で、暮らしをかもそう

さて、仕込みが済んだ後はお楽しみの試食会!先生が用意してくれた豆腐の塩こうじ漬けを頂く。といっても、どんなものか想像がつきにくいかもしれないが、塩こうじに漬け込まれた豆腐にはチーズのようなコクが生まれ、上品なディップのよう。

オープンサンドイッチとしてトマトやレタスと一緒にパンに載せて、スペイン産オリーブオイル(こちらも暮らしの発酵ショップで購入可能、なんともフローラルで香り高い!)と共に頂くと、なんともオリーブオイルとディップのコンビネーションが最高だ。参加者の方が、このディップをパンに塗ってハチミツをかけてはどうか、と提案していたけれど、たしかに美味しそう。ゴルゴンゾーラにハチミツをかけたピザのようなイメージだろうか。

今回の講師である相良先生はキュートな笑顔が素敵で、ほんとうに手作り発酵食品の温かみが好き!という情熱が伝わってきた。参加者の素朴な疑問にも丁寧に応えてくれ、一人で参加した私も居心地の悪さは一切感じず、同じテーブルに座った方々と共に和気あいあいとワークショップを楽しんだ。 持って帰ってそろそろ食べごろに発酵した塩こうじは、冷蔵庫に保存すれば長持ちするという。

さっそく出来上がった頃に、チキンに塗り込んでマリネし、シンプルに焼いて食べてみた。むむむ、勉強したとおり酵素がタンパク質を分解してくれたおかげなのか、深い滋味というか旨味を感じる! 調味料として使用する場合は塩の代わりと考えて良いとのことで、ほかに手を加える必要がないくらい美味しく仕上がった。ちなみに、塩こうじが直接フライパンで熱されるとカラメル化して焦げてしまうことがあるので、それがイヤな人は塩こうじを取り除けてから焼けば大丈夫。

除けておいた塩こうじは、別途に加熱してソースにしてもいい。食品によって漬け込む時間を変えたり、色々と楽しみながら工夫できそうだ。 こうやって、暮らしのなかに良い菌を取り入れることで、自然と腸内環境が整ったり、普段の料理が楽しく変化する。あら、これってまるで発酵のプロセスみたいな感じじゃないだろうか?ちなみに、穀類を麹にして水とあわせ、酒や醤油などを醸造することを「かもす(醸す)」という。

自作の塩こうじを楽しむ日は少しだけ、自分の意識が少し変わったような、暮らしが少し「かもされた」ような、そんな豊かな気持ちになれたワークショップだった。

 

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Information
暮らしの発酵DELI&CAFE
住所
沖縄県中頭郡北中城村喜舎場1478番地 EMウェルネス暮らしの発酵ライフスタイルリゾート内
営業時間
8:00~19:00

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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