アタマ、カラダ、ココロに染みる発酵ライフ:発酵ライフ推進協会

 

  発足からたった2年で会員数1000名以上、資格取得者数100名以上の勢いを見せている発酵ライフ推進協会。

その間、「地元でもっと発酵を伝えていきたい」と、北海道、富山、名古屋、広島と分校が次々に開校している。なぜそれほどまで人々は発酵に魅了されるのか、代表の是友さんに聞いた。

発酵ライフ推進協会 代表  是友麻希さん 発酵食文化研究家の第一人者。大学卒業後、「銀座すしもと」にて修業。2005年より魚専門料理教室「Ristorante我が家」を主宰し、生徒数3000人を超える予約の取れない料理教室として多数メディアに出演。「cheeza」(江崎グリコ)や「まる」CM料理(白鶴酒造)などの開発に関わる。2017年5月、東京丸の内にて、発酵と魚の飲食店「にっぽんのひとさら」をオープン。

 

発酵はツールでありルーツである

発酵って、世界をつなげる懸け橋になれると思うんですよね。私は板前として和食料理屋にいたこともあったけど、「和食」というキーワードで世界の食をつなげるのは難しい。

でも、発酵は世界中にあるから、発酵を学んだ私たちなら、和食でもフレンチでも、ジャンルを超えた新しい料理の提案をしたり、蔵と蔵とをつないだり、メーカー同士の懸け橋になったり、一社だけでは解決できなかったことを解決するお手伝いができる。「発酵」というツールを使って、今あるものにちょっと付加価値をつけた提案をすることだってできるんです。私の経営する発酵食レストラン「にっぽんのひとさら」(丸の内)でも月1回、消費者と生産者の交流イベントを開催していますが、色んなつながりが生まれています。

醸造業界に携わり、活躍している女性たちのトークイベント。会場は満員。発酵で輝く女性たちへの関心の高さがうかがえる。

 

 発酵は今ブームになっているけど、今に始まったことではなくて、何百年・何千年という歴史があります。なのに、わかっていないことだらけ。だから面白い。特に日本の発酵文化は世界的に見ても素晴らしく、和食が世界文化遺産になったけれど、その和食を支えているのは発酵だといってもいいくらい。味噌、醤油、酢、酒、みりん、鰹節・・・調味料のほとんどが発酵食品ですから。

発酵を五感で味わうための醸造ツアーも開催(写真は愛知県常滑市の澤田酒造)。

 

 味噌汁を飲むとホッとするとか、杉桶に入った醤油のにおいを懐かしく感じることとかって、言葉では説明できない感覚ですよね。それって、私たち日本人のDNAに染み付いた「何か」が発酵と結びついているんじゃないかな。発酵は、生活を豊かにしたり、人をつなげたりするツールなんですが、それ以上に、深いルーツなんだと思います。それを無意識で感じている人が増えているから、発酵がこれほどまでにブームになっているんじゃないでしょうか。  

 

伝えているのは「感動」

自分のルーツに触れるところで感動したことって、ずっと心に残りますよね。「発酵」は日本人のルーツを刺激する最高のツール。そして、深い感動は人と共感しやすい。

例えば、初めて味噌を仕込んだ時の感動と、全然知らない国の料理を初めて作った時の感動って違うし、その味噌を食べた時に受けた衝撃のおいしさは時が経っても、一緒に味噌を作っていない友人とでも共有できます。

講座では、学ぶだけではなく、講師が考えたカンタン発酵料理の試食も。今回は甘酒を料理にフル活用。「やわらかい!」「おいしい!」と感動の輪が生まれていた。

 

おいしい!とかこんな風に作ればいいんだ!という感動は、どんな料理教室にもある感動だと思います。そこに「発酵」という深みを加え、さらに、歴史やメカニズムなどの知識もスパイスとして加えていくんです。

よく、うちの協会の講座を受けた方には、「今まで断片的な知識だったものが、一本の線につながって、より理解が深まりました」とか「失敗した理由がわかり、自分で対処できるようになりました」と言われます。それは、知識ではなく、「そうだったのか!」という学びの感動を伝えているのと一緒なんです。そうした色んな形の「感動」を、発酵を伝えることで多くの人と共有したいと思っています。

 

ポコポコと地域が沸いてきた

協会を立ち上げる前、料理教室を15年くらいやってきたけど、何人もの人に言われて一番嬉しかったのは「大人になってから親友ができるとは思っていませんでした」という言葉。

料理教室に通った人同士が結婚したこともあるし、自分が提供した場で、その人の人生が楽しくなったと聞くのが一番嬉しい。 講座に来る一番の目的が「仲間をつくるため」という人はほとんどいないだろうけど、結果的に気の合う仲間ができるんですよね。それは、一緒に「感動」を共有しているからということも大きいと思います。今、発酵ライフ推進協会は、たった2年間で会員数1000名以上、東京以外にも北海道、名古屋、富山、広島で「地元でも発酵の魅力を伝えていきたい」と精力的に活動しています。その他の地域でも「やりたい」と声を上げてくれている人がいるし。

各エリアでは、地元の醸造家さんや生産者さんとつながりが深く、イベントのお手伝いやマルシェ出店なども。醸造蔵の想いやこだわりを生で感じて発信することも発酵ライフの楽しみのひとつ。

 

料理教室時代、全部自分一人でやっていたんだけど、それって、すっごく大変なんです。今は志を共にした仲間たちが一緒になって盛り上げていっているから、(大変だけど)楽しい。「何かやりたいけどどうやったらいいかわからない」という方もサポートしていけるような雰囲気になっています。みんなでワイワイやっていたら、ポコポコと各校が沸きあがってきた2年間。本当に、一人一人が菌になって日本を醸している感じ(笑)。

 

一人一人に「私らしい発酵ライフ」を

協会では、甘酒・味噌・醤油を学んで作る基礎講座と、広く体系的に発酵を学んで仕事や生活に活かすための資格講座を開催しています。発酵食品について学ぶ機会を提供しているんですが、それを学んでもらうことが目的ではなく、「その人の生活や人生がより良くなるために、発酵の知識を活かしてもらう」ことが目指していることなんです。

取材時の講師は岩本宣子さん。酒のつまみにもらった発酵調味料との出会いから、発酵の世界へ。「いいことをもっとみんなに広めたい」と、この日晴れて講師デビューを果たした。

 

実際、発酵を学んで旦那さんから「料理が上手になったね」と褒められるようになったとか、人前に立つのが苦手だったけど、講師として人に伝える楽しさを知ったとか、仕事に活かせる知識が身についたとか、その活かし方は人それぞれ。自分に合った「発酵ライフ」の楽しみ方を見つけるお手伝いができたらいいなと思っています。

 


2019年5月取材:「暮らしの発酵通信」10号掲載

Information
発酵ライフ推進協会 (運営:株式会社フードマイニング)
住所
東京都千代田区丸の内3-1-1 国際ビルB1F にっぽんのひとさら内
TEL
03-6260-8405

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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