オーガニックグラノーラがつなげるピース&サステイナビリティ:ラ・グランダファミリオ

今は裏方に徹している澤田千晶さん(左)とエー・サポート担当者の岡田良子さん(右)。人と人とのつながりで生まれ、始まった取り組みは、地域も世界も醸していく。

AManTOプロジェクトの一環として、平成25年に自家製オーガニックグラノーラ専門店「ラ・グランダ・ファミリオ」を中崎町にオープンさせた澤田千晶さん。グラノーラを通して自分の事・地域の事・世界の事を進めてきた。子どもの頃から、いつか福祉に関わると思っていたことが、今始まっている。

 

シンプルな意識がグラノーラをおいしくする

白を基調としたオシャレな店内。窓辺に並ぶグラノーラと壁に吊るされたバナナ。グラノーラは冷たい牛乳をかけて食べるものだと思っていたけれど、アサイーや温めた豆乳でいただくのもおいしい。 大阪市城東区に昨年7月にオープンしたラ・グランダ・ファミリオの2号店。この店舗はオープンに際し、「障がいがあっても安心して長く働き続けることができるグラノーラの店」としてクラウドファンディングで資金を募集し、130名以上の支援者によって設立した。

「中崎町の1号店は私が製造も販売もしていました。昨年の1月に夫の趣味の集まりにグラノーラを差し入れしたところ、障がい者の就労支援をしている㈱エー・サポートの社長さんが気に入ってくださって。『うちでもやらせてほしい』と仰ったので、クラウドファンディングのお手伝いをしました。おかげさまで目標金額が集まり、話がトントン拍子に進んで、7月にここがオープンしました。

城東店が始まってから、中崎町店も併せて、仕入れから製造、運営はすべてエー・サポートさんにお任せしています。私はレシピのアドバイスとか、裏方でお手伝いしています。」

グラノーラは、端的に言うと材料をそのまま混ぜ合わせて加工するもの。割れや大きさのバラつきなどによるロスがないため、障がいがあっても作りやすい。

 

ラ・グランダ・ファミリオのグラノーラは原材料のほとんどがオーガニック認証を受けていたり、農薬や化学肥料を使用していないもの。そして、できる限りフェアトレードのものを選んで使用している。

「たぶん、日本一材料費が高いグラノーラじゃないかな(笑)。壁にかかっているバナナはフィリピンのバランゴンバナナという品種なんだけど、これは元々フィリピンの人たちが食べない種類のバナナだから、彼らの食を侵すことはない。

バナナって、農薬がひどいから、防護服を着ないと畑に入れないくらい危険な所で、奴隷制度のような状態で働いている人がいるんです。でも、これは農薬を使用していないし、労働環境も整った会社のバナナなので、人にも環境にも害を与えることはありません。何よりも、すっごくおいしいんです。」

ねっとりとして甘味がとても強いフェアトレードのバランゴンバナナ。正当な労働環境下で生産者が働いている。

 

「私はとてもこだわりが強くて、味も品質も妥協できない性格なんです。グラノーラを自分で作っていた時、その時の意識がすごく味に影響することがわかりました。だから、他の人に任せておいしいものができないと困るから、誰にも触らせませんでした。でもそれって、永続的ではないなと思って。そんな時にエー・サポートさんからお話をいただきました。

障がいのある方々って、すごく素直でシンプルな意識を持っている人でしょ。だったら、グラノーラ作りにピッタリなんじゃないかって思ったんです。」

 

「買ってあげる」ではなく「おいしいから買いたい」を目指す

豆乳で頂くアサイー&フルーツのグラノーラボウル。ビタミンやミネラルがたくさん入っていて、美容と健康を気にする方におススメ。豆乳をかけた時とかけない時のグラノーラの食感の変化も楽しめる。

 

そもそも、中崎町の店を始めたきっかけは、AManTO プロジェクトの一環としてだった。マクロビオティックの考え方から、娘さんを3歳までお米と野菜だけで育てていた澤田さん。

子どもが大きくなるにつれ、お菓子を欲しがるようになるけれど、市販のお菓子は与えたくなかったという。 「AManTO ではよく、自分の事・地域の事・世界の事って言うんですけど、私の場合は娘に安全なお菓子を食べさせたかったのがスタート。地域の事で言ったら、グラノーラとかオーガニックのドライフルーツって、本来賞味期限がとても長いんです。2年とか。常温で保存できるし、栄養価も高いので、これは災害時の非常食にもなります。

そして、その原材料にフェアトレードのものを使うことで、世界の事につながっています。エー・サポートさんと一緒にやらせてもらうことで、『地域』の意味がさらに広がりました。

私は子どもの頃から、自分は福祉事業をするんじゃないかと思っていました。小学生の時に、なかよし学級(特別支援学級)の教室にトランポリンがあったんです。それで遊びたくて、よくそのクラスに通っていました。だからそのクラスの女の子と仲良くなって、遊んでいたんだけど、その子のお母さんに『千晶ちゃん、大きくなったら、この子たちができる仕事をつくってあげてね、助けてあげてね』って言われて。それがずーっと心に残っていたからかな。 エー・サポートさんに運営を任せたら、周りから『事業売却したの?』って言われるけど、そうじゃないんです。契約書とかもないし。人でつながって、信頼で始まった。」

 

 

「最初は、中崎町はそのまま自分で続けて、城東店だけお任せしようかと思ったんですが、区別をすると差別が生まれるかもしれないと思ったから、両方お任せすることにしました。お客様によって、『障がいがある人が作っているなら、中崎町店で買うわ』とか、逆に『障がい者支援になるんだから、城東店で買うべきでしょ』となる可能性があります。でもそれって、どちらも健常者と障がい者を分けて考えていますよね。『障がいがあるから買ってあげる』ではなく、どこにでもある普通の店と同じように、『おいしいから買う』ことを目指したい。丁寧に良いものをつくっている職人たちが、たまたま障がいを持っているだけ、みたいな。

グラノーラ作りをしていて自分の中で大きかったことは、『ジャッジをしない』という大切さに気づいたこと。私はこだわりが強すぎて、フェアトレード食材と書いてあっても、その細かな製造方法や会社の方針が気に入らなかったら、『こんなん、フェアトレードじゃない』とジャッジしていました。自分の中の理想の形と常に照らし合わせ、それに合わなかったものは認めない、みたいな。

私は恒久的な世界平和を目指しているのに、なんでこんなに悩むんだろうって思っていました。これを続けていたら、個人の理想には近づけるかもしれないけど、ジャッジが入ると社会の大きな理想には近づけないかもって気づけた。恒久的な世界平和って、明確にすればするほど、その枠の中にはまってくれる人は少なくなる。そうじゃなくて、自分がそこを目指して、他の人もその人なりの世界平和に向かっていった『結果』でしかないんじゃないかと今は思えるようになりました。」

エー・サポートでは定期的にサークル活動も行っている。取材時にやっていたのはタロットサークル。タロットカードを通して、初対面の人とでもコミュニケーションがとれるようになる訓練にもなるそう。

 

「自分だけのこだわりの中にいた頃にエー・サポートさんの話をもらっていたら、引き受けなかったかもしれないし、中崎町店だけは自分のものとして残したかもしれない。でも、そのことに気づけたから色んなものを許せるようになったし、店を任せることができました。 当面の目標は、今働いているメンバーを、次に入ってくる障がい者メンバーの指導ができるように育てること。

障がいのある方だけで店が運営できるようにサポートしていきたい。グラノーラ作りという役割を手放した今は、次に自分の成長のためにどんな役割がくるかなぁって、楽しみです。」 ラ・グランダ・ファミリオは「大家族」の意味。原材料そのもの、原料を育てる人、グラノーラを作る人、食べる人。そこに関わるすべての人がお互いを思いやり、役割を持って生きていく。今後もどんな素敵な「家族」が増えていくのだろうか。

 


2018年12月取材:「暮らしの発酵通信」9号掲載

Information
La Granda Familio JOTO(城東店)
住所
〒536-0008 大阪府大阪市城東区関目5丁目15番34号 大村ビル1階
TEL
050-6180-2525
その他
La Granda Familio NAKAZAKICHO(中崎町店)
〒530-0015
大阪府大阪市北区中崎西1-1-18
tel&fax 06-6136-7811
http://www.grandafamilio.com/

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

関連記事