オリーブをめぐる大同夫婦の人生の旅:大同千香さん・久志さん

6年前に神奈川県湯河原町でオリーブ栽培を始め、静岡県東伊豆町へ2年前に移住した大同さんご夫妻。「自然や科学と調和しながら、生きるために必要なものは何か」を感じられる場所づくりを始めている。

 

 

千香さん(以下、千) 

東京では港区の高層マンションに住んでいたんだけど、コンクリートジャングルに疲れたサラリーマン、東京の暮らしに疲れてしまいました。

それを解消しようと、休みの日に彼(久志さん)の会社の保養所巡りをしていたんだけど、それも飽きてしまって。いっそのこと、週末田舎暮らしをしようと思って、湯河原(神奈川県)に庭付きの一戸建てを借りたんです。家庭菜園していたら、それがすごく楽しかったし、何よりも、彼の顔がイキイキしてきて、彼が輝いている顔を見ながら生活するのっていいなぁと思いました。そこで、よし、農家になろう!ってなったんです(笑)。

久志さん(以下、久) 大手企業でエンジニアをしていたんですが、25年務めたら辞めようと思っていました。元々野菜を育てたり自然に触れたりするのは好きだったんだけど、二人とも農家の出身ではないし、農業も素人。

湯河原には地縁がないし、農地も借りられない。だから農業学校を出て農家になって、湯河原でミカン栽培を始めようと思っていました。

 本当はね、私はミカン栽培にピンとこなかったんだけど、学校に通ってくれているのは彼だから文句は言えないよね。石けんづくりをしようと思った時に、油を材料で使うから、オリーブ育てようよ!と提案したんだけど、栽培方法がわからないからって、OKしてもらえませんでした。 東日本大震災が起きて、西日本に移住を考えていたんだけど、条件が合わなくてなかなか決まらなかったんです。

そうしたら、湯河原でオリーブを植えてもいいという方と、ミカン畑の管理を任せたいという方が見つかりました。 2011年は私たちにとって色んな転機が訪れた年でした。彼が退職を決めたのは2010年秋。農業学校に通い始め、合格して3月に退職。震災が起きて、放射能や電力の問題を突きつけられたし、乳ガンが見つかったことも大きかったです。

「キッカケは病気だったけれど、やっぱり手作りって安心だし、何よりおいしいよね。」と、味噌や醤油を手作りしている千香さん。

私は昔から体が丈夫で、ケガも病気もほとんどしてこなかったから、自分がガンになるなんて信じられませんでした。

ショックで、涙が止まりませんでした。でも、人間て、落ち込んだ時でも、前を向いていこう、生きていこうっていう気持ちが出てくるものなんですね。

手術して半年くらいはやる気をなくしていたけど、なんで乳ガンになったんだろう?どうしたらならないんだろう?再発しないんだろう?って考えるようになりました。色々調べて、行きついた答えは、生き方や考え方が大事だということ。

無理して嫌な人に会ったりしてきたけど、自分に素直に生きていこうと思いました。 あとは、「食」。それまでは、自分が食べたいと思うものが体にいいものだと思って、特に気にしていなかったんです。食品添加物の問題や発酵食品が体にいいことを知って、無農薬野菜を作って食べるとか、味噌や醤油を手作りする生活に替わりました。

 

海水を汲んできて自家製の塩づくり。ニガリができるので、それを使った豆腐づくりが久志さんのマイブーム。

  また、震災の時に、電気が自由に使えない体験をしたことによって、自分たちの家は電気を自給( オフグリッド)しようと決めていました。それができる建築業者を探していたら、自然素材にこだわった家づくりを推奨している(一社)天然住宅を知り、2年前に建てたのがこの家です。

お手製のソーラーパネル。電気を自給していても、冷蔵庫やパソコンを使ってます。

   私たちはプレハブ小屋に寝泊まりして山を開墾できるくらいだから、家自体へのこだわりはあまりなかったんです。でも、ある人から、「ここの山には氏神様がいて、あなたたちは家をどうでもいいと思っているだろうけど、今から多くの人がここに来るから、あなたたちが住んで幸せだなと思う家をしっかり建てなさい。」というメッセージをもらって。

壁や天井は貝殻の漆喰だし、断熱材もウール。完成した家に入ってみたら、自分たちがいかに身体に悪い化学物質の住宅に住んでいたのかということがわかりました。

「食」にこだわり始めていたけれど、結果的に、24時間人が吸う空気も身体に及ぼす影響が大きいのだと、痛感しました。  この家は、燃やしてもゴミが自然に還る家なんです。昔、山林の間伐ボランティアをしていたことがあり、林業の問題や森の再生について体感していました。山の中に暮らしている私たちにとって、山を汚さずに森の再生にも関われることは喜びの一つになっています。

 

 

 湯河原でオリーブの苗を植えて、さぁ始めよう!としていた6年前のことです。過去も未来もすべてわかるという方から、「お役目が近づいていますね。別の土地に呼ばれていますよ、その土地と湯河原とを行き来している様子が見えます。西の方、伊豆の方かな。」と言われました。 オリーブの苗を植えたばかりだし、別の土地を探していたわけではないのにそんなことを言われ…でも、確かに、一生、湯河原にいるような気はしていませんでした。

そんな時に、以前パソコンのお気に入り登録をしていた伊豆の物件が目に入ったんです。その場所がなぜか気になって仕方がなくて、ネットの写真を頼りに二人で探しに行きました。

 

土地に着いたら、気持ちがわくわくして軽やかになって!近くにいた方にこの土地が売りに出ていることを聞いてみたら、「倉庫もついていたでしょ?」と言われましたが、広告には一切そんなことが書かれていない。

不動産屋さんに後で聞いたら、広告に倉庫のことを載せるのを忘れてしまっていたそう。  僕は彼女が見に行きたいというから場所探しに付き添いで行っただけだったんですが、倉庫があるなら、オリーブオイルの加工場にできる!と思って、乗り気になってしまいました(笑)。

 

キリっと締った大同ファームのオイル。オススメは静岡県産のしらすにon!

   後で、お役目の事を言っていた方から「この場所は神社があってもおかしくない位エネルギーが高い場所だから、土地の神様が変な人には売らせないようにしていたんですよ。

ここの土と石を使ってお社を建て、土地の引き渡しの日を誕生日として毎年祝ってくださいね。」と言われたんです。氏神様はたくさんの人を呼んで、幸せを分け与えてほしい、という気持ちがあって、私たちも、そんな想いがあったから、引き寄せ合ったらしいです。

山の土を盛り、山の石を乗せて祀っている氏神様。いつも感謝しています。

  それが本当かどうかはわかりませんが、ゆくゆくはバーをやったり農家民泊を始めたりして、自然環境とも科学技術とも調和した生き方を表現していきたいです。

食やエネルギー自給の暮らしを体験してもらい、生活の中で本当に必要なものは何かを感じてもらえる場所にしていきたいと思っています。  

Information
大同ファーム
住所
静岡県賀茂郡東伊豆町片瀬1087-1
TEL
090-1999-4964

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

関連記事