人と人をつなぎ、くらしをかもす:食のアトリエ「ゆいの森」

2018年2月4日(立春)に愛知県名古屋市でキッチン付きレンタルスペースをオープンした古澤久美さん。 自身で天然酵母やマクロビ料理、発酵料理教室を運営しながらも、集う人がつながって、共に成長していく場づくりを始めている。

人と人とつなぐ「ゆいの森」

この場所を作ると決めた時、自分の原点やこれから先目指すものは何か」を名前に表しておきたいって思ったんです。自分が好きな文字や好きなこと、やりたいことを友達が会話の中で引き出してくれて「ゆいの森」に決まりました。

「ゆい」は結ぶ。「森」は共に育む。想いを持った生産者さんと消費者をつなげたり、自分が経験してきたこと や大切だと思うことを次世代のお母さんたちに伝えたり、ゆいの森に集う人たちがいい循環を生み出すような場所にしていきたい、という想いが込められています。 ここで私が一番やっていきたいことは、「伝えていくこと」と「応援すること」です。特に女性や若いお母さんに。私がマクロビや発酵料理をやるようになったのは、息子の病気がきっかけでした。病気が発覚したのは大人になってからなんだけど、小さい頃から食や生活をもっと気にしていればそうならなかったかもしれない。それはわからないけどね。息子はお陰様で完治しましたが、まず何事でも「知る」ってことが大事だと思うんです。今の時代はご飯の用意をしなくても24時間食べ物が手に入ります。夜中に食べたり、お菓子だけで食事を済ませたりしていたら体はおかしくなりますよね。そもそも食べ物がどうやって作られているのか、食のこと、健康のこと、農業や社会のこと、「知る」ことによって自分が何を選択して生きていくのかを自分で選ぶことができるようになります。

愛知県の醸造家の講座を企画し、愛知の魅力と発酵の楽しさを発信している。

 

奥さんでも母親でもない「その人自身」が輝く場を

女性って、男性と同じように勉強して就職して働いているでしょ?でも、結婚したり子どもができたりすると、仕事を辞めるのはいつも女性。私の時代は特にそうで、「古澤さんの奥さん」とか「〇〇くんのお母さん」って呼ばれるようになったんですよね。その時に、「そうか、この先私は古澤久美としてスポットライトを浴びることはないんだ。」って思って、なんか、私としての人生が終わったような感じがしていました。それと同時に、同じように思っている女性たちって結構いるんじゃないかなって思ったんです。

こだわりのある生産者・メーカーさんと繋がり、オーガニックや無添加食材で作られるごはん。

 ここで菓子製造免許や飲食店許可を取ったのも、料理を好きな人がマルシェで自分のお菓子やパンを販売したり、カフェやレストランのように自分の料理を提供したりできるようにするためです。私も保健所の許可がないから、パンを作ってもマルシェで販売できなくて残念な思いをしたことがあります。自分の料理を「おいしい」と言って買ってくれる人がいるって、すごく嬉しいから、料理を通じて、その人自身が輝ける場所につながるといいな。  

微生物目線で見えてくる生き方

自分で酵母を起こしてパンを作るようになって、今までは傲慢にパンを作っていたということに気付かされました。例えば、今日自分が食べたいパンを作る、っていうスタンスだったんだけど、天然酵母って、今日食べたいからと言ってまだその酵母の調子が良くなければパンは焼けないんですよ。それと、酵母の元になった果物や野菜によって味や性格が違うから、酵母とパンの種類の相性もあります。トマト酵母が活きるのはベーグルとかフォカッチャとか。この酵母は何が合うかな、とかいつ使えるかなって、酵母を中心に考える必要があるんです。人間が自然に合わせるということですね。

ゆいの森でぷくぷくと育つ色とりどりの自家製酵母たち

 発酵食品てそもそもそういうもので、微生物がうまく働いてくれるように手助けをするだけ。それって、子育てと似ていますよね。マニュアルはあるけれど、マニュアル通りになんていかない。微生物も子どもも自分の思い通りになんていかないんですよ。自分がやってあげてる、コントロールしているって思うと、うまくいかないんだろうね。微生物目線で発酵に触れていると、何を食べたら健康にいいか、どういう生活をしたら環境にいいか、どうやって子どもや周りの人たちと付き合っていけばいいかまで見えてきます。 そうしたことをゆいの森でも伝えていきたいし、ここ以外でも若いお母さんたちに伝える活動をしています。北名古屋市にある平田寺では、子育て中のお母さんたちが集まるお話会や発酵好きが集まる会などの催しが開催されていますが、私はその中で料理の担当をさせてもらっています。お料理の説明を聞きながら、お母さんたちが農薬や食品添加物のこと、発酵食品のことなどに自然と興味が沸いてくるといいなと思って。今は情報があふれていて、意識しないと大きな波に流されてしまいます。知って、自分の責任で判断するならいいけれど、知らずにやって、子どもになにかあって後悔してもらいたくないですからね。

平田寺でもおいしいランチを通じて、若いお母さん世代に食の大切さを伝えている。

 それから、東日本大震災の支援活動としてお味噌と梅干しを作って東北に送る活動も、平田寺で毎年続けています。この「つながるかもすプロジェクト」では、自然界に生きる菌の「醸す」チカラを借りた発酵食品や昔ながらの保存食を手作りし、暮らしに役立てることによって今と未来をつなぎ、それぞれの土地に生きる人のチカラを醸すことを目的にしています。

つながるかもすプロジェクトで作られた梅干しと豆味噌。 東北支援として送る他に、平田寺で販売もしている。

 まだ、ゆいの森は始まったばかりだけど、微生物が発酵によって仲間を増やしていくように、想いを共にする仲間と成長し、豊かな森を育み、次世代の若木も応援する「森」を育んでいきたいです。


2018年5月取材:「暮らしの発酵通信」7号掲載

Information
食のアトリエ「ゆいの森」
住所
愛知県名古屋市東区東大曽根町34-12 第二厚進マンション203
TEL
090-1098-3497
その他
主宰 古澤久美さん
マクロビオティック リマクッキングスクール師範科卒。白神酵母パン講師認定。野菜ソムリエ。食育インストラクター。発酵ライフ協会名古屋校校長。発酵ライフ推進協会認定講師。発酵ライフアドバイザープロフェッショナル。ウエダ家自然発酵研究マスター。

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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