バナナで巡る人と地球の健康ループ

日本の家庭内で最も食べられている果物「バナナ」。沖縄県にある暮らしの発酵ライフスタイルリゾートの直営農場〈サンシャインファーム〉では、農薬や化学肥料を使用せず、資源を循環させるバナナ栽培が始まっている。

甘いバナナの苦い現実

 日本国内で消費されるバナナの99.9%が輸入品であり、そのうちの約80%(※)がフィリピンでプランテーション栽培されている。プランテーション栽培とは、欧米諸国の植民地となっていた熱帯・亜熱帯地域の広大な土地を開墾し、輸出目的のために単一作物を大規模に栽培するための農園のこと。お茶やコーヒー、カカオ、バナナ、サトウキビ、天然ゴムなどが主な作物で、農地拡大のための森林伐採や安価な労働力の人権問題、農薬散布時の健康被害などの様々な問題が潜んでいる。

 バナナは種をまいて育てるのではなく株分けによって数を増やすため、同じ遺伝子を持ったクローンがプランテーション一面に密植している。遺伝子が同じであるため、病気や虫の被害が出るとそれらが一気に拡がってしまう。それを未然に防ぐために防カビ剤や殺虫剤などの農薬が使用されている。

 バナナの背丈は品種によって異なるが、およそ1〜5mで、背の高いものによっては10mにもなる。こうした背丈の高いバナナ全体に農薬を散布するためには、小型飛行機による空中散布が最も効果的である。ある程度の高度から空中散布をするため、農薬を浴びたことで近隣の家畜が死んだり、農園の労働者や近隣住民は皮膚がただれたり失明したりするなどの被害を受けているという報告がある。

こうしたバナナ栽培の問題を解決するため、フェアトレードやオーガニック認証のバナナも徐々に拡がりをみせつつある。

※2019年の財務省貿易統計で1位フィリピン(約83万7千トン、約80%)、2位エクアドル(約11万9千トン、約11%)、3位メキシコ(約5万4千トン、約5%)。1970年頃までは台湾産が大半を占めていた。

樹熟の循環型国産バナナ

 暮らしの発酵ライフスタイルリゾートの直営農場〈サンシャインファーム〉では、2019年から環境に負荷をかけない安全でおいしい有機バナナ栽培が本格始動した。有用微生物群(EM)を活用して農薬や化学肥料を使用せず、自家製の発酵肥料や植物残さを堆肥化させた健康な土づくりに重点を置いている。植物残さには、農場と同じ村内の街路樹を剪定した時に出た枝や葉、伐採したバナナの幹や葉、バナナの加工時に出る皮などを利用している。

 輸入バナナはまだ実が熟していない青いうちに収穫されて輸送される。黄色く熟成したバナナには日本の農作物に被害を及ぼす可能性のある害虫が寄生している恐れがあるため、植物防疫法により輸入が禁止されているからだ。実は、農作物は収穫ギリギリまで樹で熟すのを待った方がおいしい。国産バナナが「甘くておいしい」と評価される理由の一つには輸入品よりも樹で長く熟成させて収穫・出荷できることがあげられる。

 サンシャインファームで栽培されている有機バナナも樹で熟させることで自然な甘味が増していく。

街路樹の剪定残さやバナナの収穫残さ等を有用微生物群(EM)で発酵させ、土の上に重ねていく。土の中の微生物の働きによってふかふかの土になり、バナナはさらに根を張りやすくなっていく。

手から手へ、やさしさの循環〈ハンドループ〉

 こうして丁寧に育てられたバナナは、サンシャインファームの同地域内で加工され、有機ドライバナナになる。加工時に出る皮等のゴミは堆肥化してリサイクルされ、栽培から加工、廃棄物の再利用など一貫した循環型システムの中で作られている。作る人から食べる人へ、手から手に渡っていく地球にやさしいループ(輪)を回していきたいと、有機ドライバナナは〈H&LOOP(ハンドループ)〉ブランドとして販売されている。 

Instagram@handloop_jp

「当初はドライバナナとして販売する予定じゃなかったんですよ。最初は生食で販売していたんですが、沖縄県外に発送することを考えると生のままでは流通コストがかさんでしまいます。何か加工品を作ろうと思って、半分遊びのような感覚で仲間とアイスを作ったり乾燥させたりして試作品を作っていました。
 その中で、ドライバナナが一番おいしかったんです。このバナナは、日本国内で最も流通しているキャベンディッシュという品種よりももっちりとして甘味が強く、柑橘系のさわやかな香りがある品種なんですが、乾燥させたことによって味が凝縮してさらにおいしくなりました。県外発送を考えた時に、生のバナナよりも軽いし賞味期限も長くなるし、味もおいしいということで商品化することにしました。」

と、ハンドループプロジェクトの末廣勇雄さん。栽培のしやすさや味など、品種の選定から栽培方法の確立まで様々な栽培試験を経て安全でおいしい有機バナナが作れるようになった。

 「ドライバナナはバナナ本来のおいしさを再現するために、油や砂糖・保存料などを一切使用せずにスライスして乾燥させただけのシンプルな加工をしています。乾燥させる温度も低温(48℃以下)で乾燥させることでバナナの持つ酵素やビタミン・ミネラルなどの栄養素をそのまま残しています。国産バナナの流通量はわずか0.1%です。その中で、オーガニック認証を受けているバナナはもっと希少です。そのおいしさをぜひ味わっていただきたいですね。

砂糖や油・保存料などを一切使用せず、低温乾燥でバナナの甘味をぐっと引き出した有機ドライバナナ。

 あとは、農薬や化学肥料を使わずにバナナの幹も葉も皮も、捨てるところなく循環させているバナナの栽培がもっと世界に広がれば、バナナ栽培が抱える問題も解決できると思っています。」

 栄養価が高いバナナを、手軽にかつ安心して食べることができる有機ドライバナナ。おいしく食べて地球も汚さない有機ドライバナナだからこそ、トレッキングやキャンプなど、自然の中で味わうのもまた格別。

ソフトな食感で年齢を問わず食べられるのが嬉しい。


2022年12月取材「暮らしの発酵通信」17号掲載

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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