ファスティングは体の中の大掃除

ファスティングで細胞のクリーニング

 ファスティングという言葉はだいぶ広がっていますが、ファスティングとは簡単に言ったら「断食」のことです。本格的な断食は1週間~10日間ほどやりますが、2~3日でも効果はあります。食事をしないと、どんな効果があるのでしょうか?私たちは普段2~3度食事をしていますが、どこかに遭難して飲まず食わずに1週間過ごしても生きていたりします。どういうことなのでしょうか。

 食事をしないということは、体の中に必要な栄養が来ないということです。通常であれば、「おなかが空いた」という状態ですね。空腹のシグナルが発令し、私たちは食事を摂るわけです。でも、「おなかが空いたけれど仕事が終わらないからまだ食べることができない」という状況でしばらくすると、おなかが空いていたことを忘れてしまうことがありますよね?これは、仕事に集中して気がまぎれるということもありますが、空腹のシグナルを体が出すのをあきらめるんです。そして、しばらくするとまたシグナルを出します(=おなかが空く)。何度かシグナルを出しても栄養が来ないと、体は体の中にあるもので何とかしようとするようになります。

 

 私たちの体は細胞内に緊急事態用に貯蓄しているものがあり、ファスティングによって、その余分に持っていたものをエネルギー源として使うため、体が軽くなったり頭がスッキリしたりするわけです。例えて言うなら、薪でご飯を炊いていたら薪がなくなってしまった。外に薪を取りに行くことができないから、使わなくなって置いておいた机をばらして薪の代わりにしたら家の中がスッキリした、みたいな感じです。家の中の大掃除、細胞のクリーニングといったところでしょうか。人間の体は4050兆個の細胞があるので、それらが全部クリーニングされて、細胞レベルから健全な状態になるということです。

 食べないと痩せにくくなる?!

 私たちの体は、飲まず食わずでも体の中だけでエネルギーを産生して血液の状態を一定にするという機能を備えています。これをホメオスタシス(恒常性)と言いますが、どんなに飲まず食わずでも血糖値は一定にするようにできています。そうしないと脳が生きていけないからです。筋肉を動かすにも糖が必要です。

 外からエネルギーが入ってこないと、肝臓に貯蓄されている糖(グリコーゲン)をまず使います。これは1日くらいで無くなってしまうので、体の中で糖を作り出す仕組み(糖新生)が働きだします。何もないところから無尽蔵にエネルギーを産生できるわけではなく、糖新生するにも何かを糖に変えないといけません。そんな時は、筋肉を材料にするのが手っ取り早いわけです。

 筋肉はタンパク質でできていて、タンパク質をバラバラにするとアミノ酸になります。そして、アミノ酸をさらにバラバラにすると糖を作ることができます。糖をバラバラにしてタンパク質を作ることはできないし、脂質からタンパク質や糖を作ることはできません。肝臓の糖が無くなると筋肉から糖を作り出してエネルギー源とします。つまり、「ただ単に食べない」ということをすると筋肉がやせ細り、より痩せにくい体になるということです。

 脂肪は最後に燃える

 痩せたい方は脂肪を減らしたいわけですが、体の仕組み上、脂肪をエネルギー源として使うのは最後なので、なかなか落ちません。体内で利用できる糖が足りなくなった後に、脂肪酸から「ケトン体」がつくられてエネルギー源として利用するようになります。ケトン体は脳もエネルギーとして使うことができるものです。

  ケトン体は脂肪をバラバラにしたものです。私たちの体内は弱アルカリ性になっていますが、ケトン体が血液中に入ると、酸性よりになります。そうなると、頭痛、吐き気が起こりやすいです。ファスティングをしてエネルギーが枯渇し、ケトン体を使うように体のシステムが切り替わると、体調が悪くなる人もいます。

そういう時は、ファスティングを緩和・中止しましょう。少し飲み食いしたら収まります。頭が痛いからと言って、痛み止めを飲むのはやめましょう。空腹に鎮痛剤を飲むと体への負担が大きすぎます。

 ファスティング中は特にぬるめのお風呂がおススメ

 また、生命がピンチの時、生命維持を最優先するために、体はセーブモードに切り替えます。このことは専門的にオートファジー、と言います。心臓や肺などの臓器を守るために、最初に切り捨てられるのは皮膚や末端の血管です。体の感覚としては、手足が冷たくなります。全体の燃焼効率が下がって体温が下がり、寒さを感じやすくなります。これは、毛布をかぶって何とかなる寒さではないです。体の中から温めるようにしましょう。

  体を温めるためにはお風呂がいいですが、ファスティング中は体力を消耗するので、さらにお風呂で追い打ちをかけると一気に体力を消耗してしまいます。熱いお風呂に入ると、体への負荷がかかりすぎるので、ぬるめのお湯がおススメです。あまり汗をかいたり、心臓がドキドキするまでは入らないでください。

 定期的にきちんとした知識の元、安全なファスティングを。

 人間には飢えに備えるDNAというのが刻み込まれています。農耕民族になって、多少飢えは軽減されるようになりましたが、人類の歴史において飢えというのはずっとつきまとってきました。食欲は三大本能の中の一つですが、本能のままに食べてしまうと、この飽食の時代は健康を損なってしまうことになるということです。そこで、あえてファスティングをすることでDNAにスイッチを入れ、健康的な体に戻すということです。これは、10年間に1回やるというものではなく、定期的に体を刺激する必要があります。 

  ただ、これまでお伝えした通り、何の知識もなくファスティングをしてしまうと、かえって健康を損ねたり間違った対処法を取ってしまう場合があります。安全に健康的にファスティングをするためにはきちんと勉強してから行うか、知識のある方のアドバイスを受けながら行うことをおススメします。

この記事を書いた人

田中佳 医師
ときわ台ときわ通りクリニック 院長/元日本脳神経外科学会認定専門医/日本抗加齢医学会認定専門医/直傳靈氣療法師/整膚師/ISBA(国際シンギングボウル協会)上級認定および認定プレーヤー /ホメオパス(クラシカル)

昭和60年に東海大学医学部卒業後、同大学付属病院脳神経外科助手を経て、市中病院で急性期医療に長年携わる。脳神経外科学会および抗加齢医学界の専門医となり、悪性脳腫瘍に関する研究で医学博士を取得。現在は、食や生活習慣、日用品、心の在り方など多岐にわたる方面から健康への道筋を広く発信している。著書、講演、オンライン講座多数。

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