善循環を生む、サステナブルのコーヒー栽培:サンタルシア農園

発酵通信

どこでも手軽においしいコーヒーが飲める現代。しかし、その1杯のコーヒーには地球規模のあらゆる課題が含まれている。中央アメリカに位置するコスタリカ共和国でコーヒー栽培をしているサンタルシア農園は、課題を解決しながら笑顔と優しさの循環を生み出している。

コーヒーが30年後には飲めなくなる?!

赤道を挟んで北緯25度から南緯25度の一帯は「コーヒーベルト」と呼ばれ、コスタリカやブラジル、エチオピア、ベトナムなど、コーヒーの主要な産地の国のほとんどがこの一帯にある。年間を通して温暖で、適度に雨が降り、年間および昼夜で適度な寒暖差がおいしいコーヒーを育む。

しかし、近年の温暖化・降雨量減少・湿度上昇といった気候変動により、コーヒー栽培に適した土地が減少してきている。WCR(World Coffee Research)*の報告によると、現在世界中のコーヒーを生産している土地の中で、30%以上が2050年までに失われると予測されている。また、コーヒー生産量の7割を占めるアラビカ種の栽培適地は、2050年には現在の半分にまで減少すると言われているほど。この問題は「コーヒー2050年問題」と呼ばれ、コーヒー業界では深刻視されている。

*WCR:2012年に世界各国のコーヒー業界により設立された、非営利の共同研究機関。

コーヒーの栽培適地が減少する一方で、コーヒーの需要は伸び続けている。コーヒー杯をgで計算した時、2013年から2017年の年間で400億杯分のコーヒーが増加している。コーヒー2050年問題と世界的な需要の増加によって、コーヒーの品質低下・価格上昇・労働者の貧困問題などが懸念されている。

大量の廃棄物が環境汚染となるコ ーヒー栽培

コ ーヒーを取り巻く社会的課題は、2050年問題だけではない。サステナブルコーヒーや環境保全型コーヒー、フェアトレードコーヒーなど、様々な認証マークがついたコーヒーを目にすることが多くなったが、その背景には、コーヒー栽培における環境汚染問題が潜んでいる。

私たちが普段目にしている茶色のコーヒー豆は、コーヒーの木になる実の中にある「種」。真っ赤に完熟した実をむいて種を取り出し、水洗いして乾燥させ、さらに種を覆う殻を取り除くと「生豆」の状態になる。生豆を焙煎するとあの香しい茶色の「コーヒー豆」になる。

パルパー(果肉を取る機械)でコーヒーチェリーから中のタネを取り出す。

 緑茶や紅茶は茶葉そのものを蒸したり乾燥させたりして加工されるが、コーヒーは実や殻を剥くという加工が前提の農作物で、その大量の廃棄物が問題となっている。そして、その廃棄物が積まれた場所は、マラリア発生の温床にもなっており、周囲の衛生環境にも大きな影響を与えている。さらには、種を洗浄した時の排水は高濃度のメタンガスを含み、河川や土壌の環境汚染、温室効果ガスによる地球温暖化にもつながっている。

コーヒーのゴミが小麦粉、肥料、燃料、衣類に

廃棄物の問題を解決すべく、世界各国で様々な取り組みが始まっている。コーヒーから取り除かれた果皮はジャムや茶葉に、コーヒーの殻は乾燥させて「コーヒーフラワー」という粉末に加工されたりしている。コーヒーフラワーは、食物繊維や鉄分、カリウムなどの栄養価が高く、小麦粉のように使え、環境にも良いということで、近年海外を中心に拡がってきている。

廃棄物を堆肥化して畑に利用したり、バイオ燃料や飼料にしたりして再利用している企業もある。また、コーヒーを淹れた後の粕を廃棄せず、繊維製品やプラスチックなどに練り込んで服やカップなどを作るといった取り組みも見られる。

廃棄物、農薬、土壌汚染を解決したサンタルシア農園のコーヒー

2050年問題、環境汚染、貧困格差など、様々な地球的課題を抱えている「コーヒー」。サンタルシア農園のコーヒーは、これらの問題解決に一筋の光を見せてくれている。

サンタルシア農園オーナー リカルド・ベレスさん。樹の上で完熟させたコーヒー豆は一粒一粒手摘みされる。

手つかずの自然に囲まれ、環境先進国としても有名なコスタリカ共和国。国内で消費される電力の98%を再生可能エネルギーでまかなっていて、2050年までに二酸化炭素排出量ゼロを目指す国家計画を発表している。コスタリカにとって、コーヒー栽培は主要な産業のひとつであり、生産性の向上と環境保全の両立を目指している。

ウエストバレー地域に農園を構えるサンタルシア農園のリカルド・ベレスさんは、1986年から3世代にわたってコーヒー栽培を行ってきた。リカルドさんは2000年より、農薬や化学肥料に頼らない栽培に切り替えている。長らく農薬を使い続けた結果、自身の体調を崩してしまった。

「以前は農薬信奉者だったけれど、病気になったことで、自分や家族、そして、農園で働く人々を守っていく責任を感じました。そのためには農薬をやめないといけない。無農薬栽培を研究する中で、土を健康にすることが何よりも大切だと考えるようになりました。」

貪欲に無農薬の栽培方法を追求していったリカルドさん。2004年にEM(有用微生物群)技術と出会うことで、無農薬栽培のコーヒー生産を確立させた。コーヒー農園に善玉菌の集まりであるEMを撒き、土の中の善玉菌にとって棲み良い環境を整えていくことで、土が健康になり、良質なコーヒーが収穫できるようになった。また、栽培だけではなく、世界的な課題となっている果肉と皮の廃棄物や廃水の問題も同時に解決している。

果肉は乾燥させてお茶に加工し、残った果肉と皮はEMで発酵させ、栄養豊富な堆肥として農園で利用している。実の洗浄時に出る廃水にもEM処理することで、農園の灌水として再利用が可能になった。

生豆を取り出す工程で出る廃棄物をEMで発酵させ、堆肥にしている。
EMとは乳酸菌や酵母と、環境によい働きをする光合成細菌を共生させたバイオ技術。発酵と蘇生の力によって農地を豊かにし、海や川の生態系を回復させ、健康と環境に関わる問題を解決する技術で、ユニセフや海外の政府機関の衛生プロジェクトでも使用されています。

さらにサンタルシア農園では、働く人の労働環境改善にも努めている。コーヒーの収穫は一粒一粒丁寧に手摘みされているので、収穫期になると、ニカラグアからの季節労働者を受け入れている。リカルドさんは、国が定めた賃金の2倍の金額を払ったり、滞在中の住居を提供したりするなど、「共に働く仲間」として大切に働いてもらっている。

サンタルシア農園から出荷されたコーヒーは、価値観を共有する焙煎士(焙煎士さんのことも書かれた記事はこちら)の元で丁寧に焙煎されて私たちの手元に届く。

サンタルシア農園のコーヒーを手軽に飲めるバッグタイプのコーヒー。(詳しくはこちら

その間でも、輸送に使用した麻袋はバッグやコースターなどにアップサイクル*されたり、輸送時のゴミを出さない工夫がされたりと人と地球の優しい循環が生まれている。

*アップサイクルとは、リサイクル(再循環)とは異なり、単なる素材の原料化・再利用ではなく、元の製品に新たな付加価値を加えたモノに生まれかわらせること。

グレインプロ(=麻袋の中にあるビニール袋)で作ったポーチ


暮らしの発酵通信」14号掲載

この記事を書いたライター記事一覧
KAKO(かこ)【里菌】
「暮らしの発酵通信」ライター。「微生物と響きあえば、人も社会も発酵する」私の大好きな言葉です。発酵の力でみんなでhappyになろう!
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